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2003/08/10

コロッケ傷害事件7

ようするに池波正太郎は、癇癪おこして食卓をひっくり返したことがあるだろうと想像できるし、新婚家庭で食べたいものも食べられない若い男にいらだち「気に食わないものが出たら、お膳をひっくり返せ」と言ったりはしたが、自分がうまいものくいたさに、そうしてきたとは書いてない。

池波正太郎の食べること食卓への関心は、そういうことを、佐藤隆介氏のように誇らしげにするほど、うすっぺらなものではない。そして、『食卓の情景』では、その池波の食べることへの、なみなみならない心のくだきよう、そうしなければならなかった「情景」こそを知るべきだろう。

『食卓の情景』は、先に引用した「惣菜日記」の前の「巣と食」から始まる。巣とは家庭のことだ。池波の同居の母と妻は、どちらも気の強い女性で、〔もめごと〕が激しかったらしいが、その「〔もめごと〕は、先ず台所からはじまる」。

「飯のたき加減、味噌汁の味、漬物のつけ方などから、姑と嫁のいさかいが起きる」

だが、「ことに、私のような職業についている者は、一日中、巣の中ではたらかねばならぬ、いわゆる〔居食〕なのであるから、日々の食事は、非常にたいせつなものとなる」ここからがカンジンだ。

「ぜいたくをしようというのではない。おいしく食べられなくては仕事にもさしつかえてくる。気分よろしく食事をすることが健康を保持する唯一の道であって、いかにすばらしいビーフ・ステーキを出されようとも、巣の空気が険悪であっては、
(身にも皮にもならない)
のである」

池波家の「食卓の情景」がどんなものだったか……。とにかく、池波は〔巣づくり〕に懸命になる。「人それぞれに、わが〔巣づくり〕に努力しているわけだろうが、私の場合は、母と家内の〔共同の敵〕になることによって、嫁と姑を接近せしめた」

つまり「叫び、怒鳴り、叱り、脅し、全力をつくして〔悪者〕となったのである」「家内を叱りつけた翌日は、むりにも母を叱る。母に注意をあたえたときには、むりにも家内に注意する」というぐあいだった。

かりに食卓をひっくり返すことがあったにせよ、それは嫌いなジャガイモコロッケをだされたからというような、それほど脳天気な話ではないのだ。

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