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2003/08/01

コロッケ傷害事件3

メシドーは便所から出て六畳の広さのダイニングキッチンのテーブルに座った。一通の封書がのっていた。妻の姿は見えない。

封書には差出人の名前がなかった。封を切って便箋を取り出す。いきなり万年筆の達筆で本文がはじまっていた。

「本らしい本は沢山売れる本ではない」と私は言ってきた。しかるに池波正太郎ごとき沢山売れる本の著者を「師匠」などと奉り、いったいこの男は「師匠」の意味がわかっているかと言いたいのだが、佐藤某のことだ。私設秘書だか腰ぎんちゃくだかわからん男が、「池波正太郎の食卓」などと題して、池波のことを正確に書くならともかく自分のことを偉そうに書く。それを読んで、食卓を引っくりかえす愚かをするものがいる。「グルメ」とは、しょせんそういうものではないか。

それで終っていた。著名がない。メシドーの視線は宙をさまよった。「本らしい本は沢山売れる本ではない」という言い方は、山本夏彦ではないか。しかし、山本は、すでに鬼籍のひとである。屁が一発でた。便所から出たばかりなのに、実と屁は関係ないらしい。

とつぜん、となりの部屋でうめき声した。妻の声だ。息が止まりそうな様子だった。メシドーが板の引き戸をあけると、妻が床でのたうちまわっていた。かすかに「水」といっているのがわかった。メシドーは周辺にちらばっているコロッケを見て、すぐさま事態を覚った。一瞬、そのまま妻が死ぬかもしれない、それを見守りたい誘惑にかられたが、また一瞬のうちにその気持を否定し、水道の水をくみにもどった。

メシドーは、ジャガイモが嫌いだった。カボチャも、サツマイモも嫌いだった。佐藤隆介氏とおなじなのだ。

アヤシゲ新聞社の社長モクドーは、モクをモクモク吸いながら原稿を書いていた。

……佐藤隆介氏は食べ物について書いているが、グルメだからではない。いわゆる「池波正太郎モノ」の作家なのである。

「社長、できましたよ、どうです、この色、この香」
専務のセドドーが大きな皿にコロッケが十個以上あるだろう、持って社長室に入ってきた。

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