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2005/05/17

悩ましい「抽象化」

『汁かけめし快食學』では、p63に「料理とは、味覚と、それを求める調理法である」と書いているが、本書では、そこがダイジだと思っている。この場合の料理とは、もちろん、技術としての料理のことだが。

ごちゃごちゃの積み木箱の中を考察する場合、あまりにもゴチャゴチャしているときは、その中をあるていど分類整理しなくてはならないだろう。そのとき、その基準を求めるために「とは何か」が必要になるときがある。

しかし、この「とは何か」というのは、いわゆる「抽象化」の作業であって、日本人はあまり得意ではないといわれているらしい。「とは何か」は、めんどう、わからない、リクツ、と敬遠される事態に出あうこともある。対して、抽象化の作業のない「私小説」あるいは「私小説的方法」がよろこばれるともいわれる。

日本人の得意不得意は、よく考えたことはないが、コト食べ物の分野の出版物に関するかぎり、「抽象化」の作業は、かぎりなくゼロに近い。たとえば、カレーライスについて語っていても、カレーライスとは何か、どういう料理なのかは明らかにされてない。そのためには「料理とは」を明らかにしなくてはならないのだが、とうぜん、それもされてない。

歴史的にイチバン多いのが、コトバの意味つまり語義的な解釈だろう。これが抽象化の作業であるかのように誤解されていることがイチバン多いようだ。そういうことが簡単に通用するのが食の分野だともいえるが。語義的な解釈をもって、私的な、あるいは「私小説的方法」による主観的な考察を、客観的なものであるかのように見せる。そこがライターの重要なテクニックだったし、読者もその巧みなところを堪能する、あるいは溺れる。そういう関係が、あったのではないか。

自分の私的な体験をもとに寄せ集めた色もカタチもゴチャゴチャな積み木を、コレはカレーライスだ! コレはB級グルメだ! コレは名人だ! コレが究極だ! コレが日本人のめしだ! コレが三大ナントカだ! とかいう類、これらはほとんど私小説的方法であり、それはそれでよいのではないかと思うのだが、モンダイは、それがあたかも客観であるかのような装いをするのである。

そのために無原則的な「広義」の解釈がどんどん広がる。結果、積み木の箱のなかは、いつまでたってもゴチャゴチャだし、ゴチャゴチャがひどくなるような話が好まれる。書くほうも読者も、そのへんをウルワシイ関係にしてきた感じがする。ようするに、これは、抽象化の作業をサボりながら、なおかつ自分の考えが客観的なものであるかの装いをする、ご都合主義というものではないだろうか。

ここで一つの疑問がわく。なぜ「狭義」にせよ「広義」にせよ、合理性をもった客観であるかのような主張をしなくてはならないのだろうか、ということだ。主観なら主観、これはワタクシ的なことなのです、何か文句がありますか? でよいではないか。と思うのだ。その場合は、ワタクシ的な方法で誠実に述べればよいのであって、自分が紹介する店が名人だとかなんとかの、客観的な基準が必要な評価は不要というものだろう。それなのに、単に自分が好きである、自分が良かった思いをしたことがあるだけで、「名人」にしたり「名店」にしたり「名著」にしたりする。

とにかく、そういうわけで、どういうわけか、料理人でも、「とは何か」を考えるひとは、少ない。昨日書いた、覚張(がくはり)さんは、「とは何か」を考えながらシゴトをしている一人だろう。

たとえば、一昨年は、酔っぱらいながら「大衆食堂とは」について話した。たしかガクさんは、大衆とは「いろんなひと」である、だから大衆食堂とは「いろんなものが食べられるところである、おれの店じゃ、いろんなもの食べさせるよ」と言った。そういえば、ガクさんは手打ちそばも、自分でつくった窯で焼くピザも、ラーメンも提供していた。自分で釣った川魚を食べさせる懲り方をする、山菜だって採ってからの劣化を防ぎ「旬の味」を保つ工夫をするが、それを押し付けるわけじゃなく、一方では「チャーハンだってうまいぞ」と言う。

で、先日は、近ごろ「健康」によいと評判だが、味覚的にはどうにもなりそうにないある食材の話になって、おれが「そんなの使うの無理だよ」というと、ガクさんはイイ食材をつかえばうまいのはアタリマエ「どうにもならないような食材をうまく食べさせてこそ料理ってものでしょう」といった。ま、そのへんに、「料理とは」に対するガクさんの考えがあるようだ。


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