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2005/09/06

昭和初期1925年前後の飲食続き

昭和初期は、よくイマの世相と似ているといわれる。ほんとかなー。似ている理由はイロイロあるようだ。その一つに「開戦前夜」ということがある。日本は戦争にむかっている、いやイラクで参戦している、そして「憲法改正」してさらに戦争をやりやすくしようと、言論統制も厳しくなっている。あるいはオリコウさんは「衆愚化」をいう。そして「大学は出たけれど」といった経済不安……共通点はイロイロあげられるようだ。おれがオモシロイと思うのは、戦争肯定のナショナリズムや軍国主義が台頭し、激しく対立しテロが続き政情不安定になり、経済不安も増す一方で、東京ではレジャーとしての飲食が盛んになるんだな。政情不安定や経済不安など関係ないかのように「うまいもの話」に興じる人たちがいる。イマと似ているといえば似ている。似ているかどうかは別にして、食べ歩きの本がブームになり、この時代の飲食に関する資料は、けっこう残っている。

その著名な一冊が『東京名物食べある記』だ。この本は、以前に南陀楼綾繁さんに借りて一冊丸ごとコピーし、ザ大衆食に紹介した。まだ途中のまま、ほったらかしになっているが。写真も載せているので、ごらんくださいよ。
http://homepage2.nifty.com/entetsu/hon/hon_tokyomeibutu.htm

「この本一冊、1円30銭。ここに登場する大衆食堂の公衆食堂[神田橋食堂]の「今日の夕食」の定食が15銭。百貨店食堂の定食が、ほぼ50銭平均。すごい差。銀座資生堂のカレーライスは30銭。昭和2年に始まったばかりの、新宿中村屋のカレーライスは1円。いま新宿中村屋の、あらあら、名前は本場・本物を気どってか「インドカリー」だけど、1300円。」と、おれは書いている。

林芙美子さん、現在の東京・山の手線田端駅近くの動坂で、間代、二畳で月5円。「朝から晩まで働いて、六十銭の代償をもらってかえる。土釜を七輪に掛けて、机の上に茶碗と箸(はし)を並べると、つくづく人生とはこんなものだったのかと思った。」

同じ時代、『汁かけめし快食學』123ページ「小僧のソースライスに洋食のにおい」に書いたように、あったかいごはんにソースをかけ「洋食を食べているようでおいしい」という埼玉県川口市の鋳物工場の「小僧」がいる。このことは『汁かけめし快食學』に書かなかったが、彼は、ふだんはそういう食事をしながら、小遣いをため、月に一度ぐらいは浅草へ行き、カツ丼を食べるのが楽しみだ。民俗学者にいわせれば、ソースライスは日常の「ケ」の食べ物、浅草のカツ丼は非日常の「ハレ」の食べ物、ということになるかな。

30銭の定食があるカフェーで働いていた林芙美子さんは、1903年生まれ。「うまいもの好き」というより「食べるの好き」の内田百閒さんは1889年生まれだから、昭和初期には、30歳後半。借金で首が回らなくなったのか妻子をほおりだして、「砂利場の奥に隠れて人とのつき合いをしないので」「そう云えば一体近頃は西洋料理を食ったことがない」「ライスカレーを食へばいくらか西洋料理の様な気持がするであろう」内田百閒さんにとっては、ライスカレーは西洋料理ではないようだ。だからだろうか、この小作品の題は「芥子飯」だ。カフェーつまり洋食屋で、女給2人にはさまれて、10銭のライスカレーを食べる。

昭和2年、芥川龍之介さん自殺の年。蕎麦屋では「盛りかけ十銭」が相場、百閒さんは出かけた先で6銭の店をみつけ、さんざん迷った挙句わずかに財布に残っていた金でそれを食べてしまい、帰りの電車賃がなくなり、家まで一時間歩く。オモシロイ人だ。酒飲みは酒代で電車賃なくしてしまうことがあるけど、安いそば一杯でとはね。

きのうの話に補足。「店」と「屋」あるいは「や」の差別は、官製のものであって、民間では旧来の習慣で「屋」で通用していることが多かったようだ。「西洋料理店」とはいわずに「西洋料理屋」である。うちは「料理店」でそこらへんの「料理屋」や「めしや」とはちがう、などと威張っていた料理人などは、官製の思想におかされたものたちということになるだろう。そのように、しばしば、言葉を通し権力者の思想におかれることがある。いま「改革」は、もっとも反国民的な権力者の言葉である。おれ、守旧派。

参考=「御馳走帖」内田百閒、中公文庫

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