« 「都市の底」の相貌、大衆食堂になにがあるか | トップページ | それでは「本の雑誌」お料理本ばんざい! »

2006/07/09

「状況食欲論」とな

なははは、古い資料を整理していたら、廃刊になった『SNOW』01年9月号で、画家にして「四月と十月」編集長の牧野伊三夫さんが「状況食欲論」なるものを開陳し、このように述べているぞ。

「 旬のものを、とかその場にふさわしいものを、とかいうことではない。食べもののうまいまずいについては、どのようなものをつくるかということばかりが大事なのではなく、食べる人が、どのように食べる状況についてこだわりをもっているかという点も大事である。
 どのくらい欲望と想像力をもって食べるかということは、何をつくるかということと同様に奥が深い。」

いやあ、まったくだ、まったくだ。これは、あれだね、江原恵さんが主張していた「料理は食べる技術だ」にも通じるね。そして最近は、いいざわたつやさんの『カップ酒スタイル』(ちくま文庫)のココロでもあるな。ふりかえると、おれが牧野さんと出会うきっかけは、この雑誌のこの記事ってことだが。

牧野さんとは、われわれはガイドブックなど持たずに街をウロウロして、身体をはって、よい店を発見し飲むわけだが。チョイとココどうかねという店の前に立つね。外からは中の様子がわからないことがある。すると、トシくって場馴れしズウズウしさも増しているおれが、まず先頭きってガラリと戸を開けて踏み込むね。ところが、あとから続いて入ってきた牧野さんが、店内をグルリ見て、「ここチョットちがう」という顔をするんだな。で、おれは、店の人に、「すみません、ちょっと間違えたようで、すみません、またこんど」とか言いながら、こんどはないよと、うすらバカ愛想笑いをしながら表へ出る。ま、そのように、「食べる状況」について、われわれは身を持ってさがし、こだわる。強くこだわるのは牧野さんだが。牧野さんは、明るさにも、こだわるね。たしかに、明るさは、食欲や味覚と大いに関係あるけど。こういうことが、街歩きとしても、飲食の過程としても、じつに楽しい味わいであるのだ。

ところで同じ号で、作家の保坂和志さんは「大喰いという美学」というタイトルに、このように書いている。「私にとって「食べる」とは量を食べることだ。」「給食では、なぜかいつも給食当番を買って出ていた今村君というのと結託して、余った分は全部私が食べていた。おいしいから食べていたのではない。自分の美学に忠実であろうとして、無理してでも食べていたのだ。でも、やっぱり何でもおいしいと感じていたのかもしれない。食べ物の好みは舌ではなく、大半は脳が――つまり自己イメージが――決めているのだから。」

うーむ、そうだよなあ、「食べ物の好みは舌ではなく、大半は脳が――つまり自己イメージが――決めている」ってこと。これは、牧野さんの「状況食欲論」でもあるね。こういうセリフや、牧野さんのようなセリフは、近頃のうまいもの好きやおいしい店知っているよ~のみなさんからは聞こえてこないのはナゼなのだろうか、と、考えたくなっちゃうな。

で、だよ、この号には、「データベース消費の時代が来た」という記事があって、「データベース消費」とは「若手哲学者東浩紀氏の命名による」と註があるが、ま、ようするに、うまいもの好きやおいしい店知っているよ~で食べ飲み歩きってのは、一種の「データベース消費」でもあるのだな。昭和30年代ブームも、昭和30年代データベース消費であるのだな。たぶん。

これは多様化・細分化が進んだ結果であるらしい。「つまり、あまりにも情報過多なため、消費者は自分自身のセンスによってなにがしかを選択することが不可能な状況にまで追い込まれていた。よって情報の大海をナビゲートしてくれる水先案内人が求められたというわけだ」

ああ、しかし、「自分自身のセンスによってなにがしかを選択することが不可能な状況に追い込まれ」た人びとよ、カナシイではないか。なぜ、そのように追い込まれたのだ。

しかし、コレ、01年9月号のことだ。この編集者はエライ! こういう編集者が増えてくれると、おれも少しはライター仕事が増えるかもしれないのだが……。と、思ったりして。

|

« 「都市の底」の相貌、大衆食堂になにがあるか | トップページ | それでは「本の雑誌」お料理本ばんざい! »

コメント

 どうも、こんばんは。
 『SNOW』は掘り下げが深いのに、お高くとまったところがない面白い本だったのに、雪印の不祥事で残念なことになりましたね。
 「世界のモツ料理」かと思えば、大衆酒場としての南欧のバール紹介、はたまた「主婦の昼メシの実態」なんて変幻自在な特集で毎号楽しみにしていたのですが。
 
 近々、一杯出来ましたら幸いです。
 
 
 

投稿: コネズミ | 2006/07/10 23:29

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/30930/10859651

この記事へのトラックバック一覧です: 「状況食欲論」とな:

« 「都市の底」の相貌、大衆食堂になにがあるか | トップページ | それでは「本の雑誌」お料理本ばんざい! »