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2006/09/09

「珠玉」や「ふるさと」という言葉を安直に使わないために、坂口安吾のイマシメ

ちかごろ、「珠玉」や「ふるさと」という言葉が安直に使われすぎていると思う。あるいは自分でも、気づかないうちに、そうしているかも知れない。

とりわけ、「文学系」のひとたち、それを志しているかのような文章を書く人たちも含め、「珠玉」や「ふるさと」を安直に、まるで朝晩のあいさつ社交辞令のように使う傾向が見られ、気になる。また、自分の文章に安直に「珠玉」や「ふるさと」を持ち込もうとしているかのようにもみえる。

たとえ「文学系」をめざしているわけではない、一介の作文労働者のようなおれでも、文章を書くかぎりは、そういうことはイマシメなくてはいけないと、最近しくしく思う。

なので、わがイマシメのために、ここに坂口安吾さんのイマシメを、忘れないよう書いておく。ちくま文庫版『坂口安吾全集』18「『炉辺夜話集』後記(昭和15年12月12日)」から、自分が気になるところだけ抜粋。

これは、表現技術以前のことだと思う。そして、想像力のモンダイだと思う。

以下抜粋(太字はおれ)……

 元来、私は、文学とは、人の心をすこしでも豊かにすればいい、人の生活をすこしでも高める力となればいい、そう考えていました。昔も今も、この考えに変りはありません。
 かりにあなたが、いま、戦場にいるとします。あなたはいま戦ってきました。まぢかに、戦友の戦死も見ました。そうして後方へ帰ってきて、久方ぶりに夜をてらす燈火の下に辿りついて、安息のひとときを得ました。
 そういうとき、疲労につかれて、ぐっすり眠るのでないとすれば、人々は娯楽をもとめると思います。宗教の本を読む人もあるかも知れません。戦争文学を読む人もあるかもしれません。然し、なかには、大きな人性の底にふれた、静かな、ゆたかな物語が、読みたいという人もあろうと思います。
 私は、そういう時にも堪えうるような、人性の底からにじみでた珠玉のような物語を書き残したいと思っています。

 すぐれた魂の人々が、生も死も忘れた曠野から帰ってきて、燈火の下で、許るされたわずかの時間に、はるかな心、はるかな虚しさをいやそうとする。――それに堪えうる物語が、どんなに深くなければならぬか。わが身のまずしさを考えて、私は、うんざりしています。
 けれども、とにかく、私が書き残そうと意図してきた物語は、その意図に於て、常にそのような物語でありました。戦場のみとは申しません。あらゆるとき、あらゆる虚無の深淵にのぞんで、読まれうる物語が書きたいという、私の念願はただそれのみでありました。

 私達の生きる道には、逃れがたい苦悩があります。正しく、誠実に生きる人に、より大いなる苦悩があります。そうして、ひとつの苦悩には、ひとつずつのふるさとがあります。苦悩の大につれて、ふるさとも亦、遠く深くなるでしょう。そのふるさとが、私の意図する物語のただひとつの鍵であります。

……抜粋おわり。

あまり「苦悩」して「苦悩」そのものが目的になっちゃあいけないけどな……。それじゃあ、糞づまりのアル中になりそうだ。

「すぐれた魂の人々」とは、殺人の戦場や労働の戦場にかりだされる、ふつうの人々のことであり、その「人の生活をすこしでも高める力となればいい」。人々の、あらゆるとき、あらゆる虚無の深淵にのぞんで力となりうること、と解釈すればよいか。

近頃は、どうも、ふつうの人々のすぐれた魂のことは眼中になく、自分がすぐれた魂の持ち主であることを表現し読ませようという傾向が強いように思う。あるいは自分の魂の押し売り。そのために「珠玉」や「ふるさと」に連なる言葉を、表現技術として使う。それをまた褒めあう。そういう流れに流されないように。イマシメイマシメ。

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コメント

某国営放送のドラマのようでもありますね。
「輝いている」がお得意の。
食育の本などは、
ほとんど判を押したようにその手合いですが。
本屋の店頭でおどろくのは、
「「珠玉」のエッセイ」とやらが、
やたら多いことです。
なんかみなさん陶酔しきっているような。
気味が悪いですね。
そこへいくと、ボンさんお得意の、
中南米の音楽や文学は、まさに、
「すぐれた魂の人々」を謳いあげたような。

投稿: エンテツ | 2006/09/09 12:37

そういえば、「美しい国へ」などと
臆面もなく使う、どこかの国のトップを
狙う危うい人もおりますね。
自分の魂の押し売り、この言葉にぴったり
あてはまるのが愕然とし、情けなくもあり、
本屋でパラパラと拾い読みしてみましたが
あんな小中生徒の模範作文程度のものが、
有難がられ、ベストセラーとは、いかんとも
しがたいですね。「醜い状況へ」が実感です。

投稿: ボン 大塚 | 2006/09/09 11:47

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