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2006/09/19

「食育」言葉のルーツ、誤解あるいは奇怪

とにかく古い、有名人が使った言葉だ、それだけで「権威」になり、祭壇に飾られる。

たとえば「食育」について、全国料理学校協会理事をやり料理専門学校の校長をしているような人が、こんなふうに書いている。

「明治三十六年、村井弦斎が新聞のコラム『食道楽』の中で”知恵・徳育・体育のほかに、いまひとつ「食育」が大切だ!と述べている。この深みある言葉が明治・大正・昭和と目まぐるしく変わる時流に、いつしか忘れ去られてしまった」

なんだかこの書き方、自分だけは忘れていなかったかのような感じだけど、これは『食道楽』からの正確な引用ではなく、この人の勝手な解釈がすでに入っているが、明治三十六年に新聞のコラムで!というあたりで錦の御旗ゾ土下座せよ、というかんじで、へへーっと頭を下げさせてしまいそう。

が、しかし、すでにかなり知られているが、「食育」という言葉は、村井弦斎の『食道楽』で始まったのではない。明治31年(1898年)石塚左玄が『食物養生法 通俗食物養生法』で使用した言葉を、その内容に従って村井弦斎が使った。そのへんのことは、「食育・食生活指針の情報センター」のサイト「食育といっても広範囲で、どこまで入るのですか」にもチトあやふやだが書いてある。……クリック地獄

そして、この情報センターの解説では、「そのルーツは大変古い物です」と説明しているが、現在の「食育」という言葉は、ルーツを継承しながら継続的に使われてきたわけではない。

モンダイは、石塚左玄がその本を出したころは、「食物養生」つまり「食養」は、明治になってからの近代的な「栄養(当時は「営養」と表記していたが)」を批判する立場の用語であり、石塚左玄も自ら「酷評」という言葉を使って「営養」をこきおろしている。そういう言葉として、「食育食養法」という言葉が登場するのだ。つまり近代栄養学とは、まっこう対決の言葉として登場した。そして、「食育」という言葉は広く使われることなくおわる。

その「食育」を、服部センセなど、近代栄養学の人たちが使って「食育」を推進している。この構図は、じつにおもしろいものがある。

とにかく、石塚左玄さんが「酷評」した一方の営養論はどんなアンバイだったかというと、日本の家政学の創始に貢献した下田歌子さんの著書『家政学』(東京:博文館,明26.5)が有名だから、そのあたりから。

以下引用……

人身に、滋養となるべき飲食、種々ありと雖も、其原質を大別すれば、三種なり。其第一は、含窒素物、即ち、成形質にして、肉類の繊維、鳥卵の蛋白、乳汁の乾酪素、及び、豆類等なり。其二は、無窒素物、即ち、燃焼質にして動植物の脂肪、米、麦、蔬菜等の澱粉、果実の糖類の如きものなり。其三は、常用の食塩、動植物等の食品中に含有する、燐酸塩、石灰塩、苦土塩の類にして、是等は、食品燃焼の際、残留する所の灰なり。此各種の滋養品は、身神の動作を保持する基礎なり。其第一の、人身に必要なるは、云ふ迄も無けれど、其第二は、人身中の薪炭の如く、専ら、体温を発生し、第三は、専ら、骨格の構成を挙げるものなり。此三種を、適度に併せ食して、身体の営養を取るべし。

……引用おわり。と、まあ、こんな調子で、西欧から翻訳輸入の近代的な流行の理論だった。

前文は国会図書館の電子ライブラリーで閲覧できる。
「家政学」下田歌子 東京:博文館,明26.5→「飲食」「食品の選定」

に対して、おもしろくないのは、東洋思想つまり漢方の養生法を継承してきた、陸軍薬剤監従六位勲四等の石塚左玄。『食物養生法 通俗食物養生法』(東京:博文館,明31.1)。これも国会図書館の電子ライブラリーで閲覧できる。

ま、しかし、この本は漢文調で難解のうえ、その主張は感情的、ご都合主義的で、そもそもその漢方の「食育食養法」を説くのに「化学的食養法」と称し、すでに言葉の上では近代化に押されている。そして、言葉では近代的な装いをしているが、述べていることは、要約すると「肉類を貪食せんとする欲情に駆らるるがゆへに釈尊も孔子も古今東西聖人は、これをつつしめといった」というようなことで、反肉食で、陰陽五行説をもとに、近代的あるいは西欧的な営養を「酷評」する。

ただし、営養論者の弱点は突いていた。つまり食べ物の営養成分と消化吸収はちがうと、営養論者の主張に欠けているところを突いたのだ。一か所弱点をみつけると、そこにくらいついて全否定をするのは、どうやら日本の伝統的狭量的たくましさであるようだ。

ま、じつは、こういう対立は、いまでも続いていて、折衷みたいなものもたくさんあって、それはそれはオモシロイのだが、今日はこれぐらいで。

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