« 「人国記」の時代と汁かけめし | トップページ | 自炊をしよう。自炊を考えよう。 »

2007/03/11

予定がくるい、1962年の二幸を思い出す

きょうは午後でかける予定をしていたのだが、おれが日にちをカンチガイしたのか、相手におまえが間違っているといわれると、ハイそうですかとスグひいてしまう素直なおれ。でも、手帳のカレンダーをみると、たしかにきょうなのだよな。ま、相手は男だから、どうでもよいか。

それでなんとなく、時間をもてあますヒマなどないはずなのだが、もてあます気分で、近くにあった森山大道さんの『新宿+』(月曜社、2006年)をパラパラ見ていたら、帯の表4側に、こんな文章があるのに気づいた。引用……

一九六一年、
初めて上京した日、
新宿駅東口ニ幸前の雑踏のさなか、
大きなボストンバッグを手に、
一人途方に暮れていた。
あれから四十五年、
人々の光彩が渦巻くこの街で、
いまもまだ一人途方に暮れている。

森山大道

……引用おわり。

一年後の六二年春に上京したおれは、まだ春の雰囲気のうちに、そのニ幸の前にいた。ニ幸は新宿東口のシンボルというのは大げさだろうし、おれが田舎の高校生だったころニキビづらでオンナと遊びに行った田舎都市の長岡のデパートより小さく、その看板文字といい、おなじぐらい洗練されていなかったが、それでも新宿東口といえばニ幸だった。

おれは途方に暮れてはいなかったとおもう。ただ腹がすいていた。そして、ニ幸の二階には食堂があった。もちろん入ったことがない。見たかんじでは高級感はないが、街角の食堂より高いかんじだ。それで、いくぶん入るのに迷っていた。しかし、こういうところでたべてみるのもいいのじゃないか、せっかく東京に来たんだもの、というぐらいの気分だったとおもう、二階へあがった。

何時ごろだったか忘れたが、広いフロアーはガランと空いていた。たべたのは、「中華ランチ」だっとおもう。当時は、あまり「定食」ということばは使われてなかった。「ランチ」が気どっていたのだ。

その中華ランチのうまかったこと。たしか、エビと豚肉の天ぷら少々、野菜のうま煮のようなもの少々、それにスープが記憶にある。スープが、街角の中華屋のチャーハンについているのとちがうのに、おどろいた。中華に天ぷらがあるのに、おどろいた。日本の天ぷらと少しちがう、これがうまかった。あとで、この天ぷらの味を思い出し、何度か行くことになった。しかし、やはり、チト高いのだ。当時のション横の〔つるかめ〕の天丼を二回ぐらいたべられそうな値段だったとおもう。そう何度も入れなかった。

いつしか、ニ幸でなくても、よくなった。中華についても、いろいろな店を知ったのだ。そのうち、ニ幸はアルタになっていた。アルタになったからといって、それほどニ幸に親しんでいたわけじゃなし、とくに思い出があるわけじゃなし、感傷はなかった。

こうして思い出してみると、初めて入った日、階段をあがって、どのへんの位置のテーブルにどちらを向いてすわったかは記憶にあることがわかった。もっとも、人間の記憶は、あてにならないものらしい。何度か入った記憶が、そのように合成されているのかもしれない。

おれは「途方に暮れる」という感覚が、肉体をさぐってもみつからないから、よくわからないのだが、こういう感覚は、おれが初めてニ幸に入った日の記憶よりは正確に肉体に残るものだろうということは理解できる。

そして、森山大道さんほどのひとが、

あれから四十五年、
人々の光彩が渦巻くこの街で、
いまもまだ一人途方に暮れている。

という、森山大道さんは、ちょっと売れたぐらいでイイ気になっている連中とはちがう。やはりスゴイひとだとおもう。

「途方に暮れる」ことをしらないおれは(希望についてもしらないのだが)、なにがあってもとりあえずめしをたべ酒をのみ、そして寝る、新宿のような街をみても「途方に暮れる」ことをしらないまま生きている。なんか、ただの動物のようだ。

「途方に暮れる」ことをしるひと、しらないひと、めしのくいかたが変わるだろうか。
元ニ幸、いまアルタの前で、あの中華ランチを思い出しながら、考えてみよう。
かつて、何人もの上京したての若者が、新宿のニ幸の前に立ったはずだ。

|

« 「人国記」の時代と汁かけめし | トップページ | 自炊をしよう。自炊を考えよう。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/30930/14225047

この記事へのトラックバック一覧です: 予定がくるい、1962年の二幸を思い出す:

« 「人国記」の時代と汁かけめし | トップページ | 自炊をしよう。自炊を考えよう。 »