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2007/06/07

食卓の歴史

人生は、しょせん自己満足、自分の満足だ。そんなことは、ワザワザいう必要はないと思うが、こうして書いてみた。

モンダイは、満足の「評価基準」だろう。どういう立場か、なんのためかによって、その基準は異なるはずだ。

「学力」だって、そのように異なる。ま、学力のことは、話がズレそうだからやめておく。でも、やはり、関係あるのだなあ。

先日来話題にしている、村上春樹訳のフィッツジェラルド『マイ・ロスト・シティー』だが、「フィッツジェラルド体験」で、村上春樹さんは、こう述べている。

“実在とは何か?人の意志がそこを彷徨(ほうこう)し、試され、打ちのめされ、変革を強いられる広大な荒野である。”(実在に傍点)。

むかし『ノルウェイの森』にガッカリし、あれ以来、村上春樹をキライになったが、やはり、村上春樹さんは、簡単に「甘さと風俗」に流れて実在を捨てるひとじゃないらしい、そのように見直すことにした。

けっきょく「変革を強いられる広大な荒野」があっても、(自己変革も含めた)変革など必要なく生きていけるところがある。実在の稀薄な、いつだってバブリーな頭で徘徊できる東京、その東京をモデルにしている都市が、そうだ。

そこでは、甘さと風俗に流れながら、たいしたことない栄光の物語、小市民的サクセスストーリーに満足しひたり、その陰に失敗や悲惨をふせることで変革など意識せずに、すごせる。いまのところは。「変革」の言葉が踊るときは、実在など関係ない、観念的な大言壮語ばかり。

ま、下町ブームだの、昭和レトロだのと、さまざまな「古き良き」過去の遺産蒐集ブームは、そういう象徴だろう。そういうものにゴロニャン群がって生きていける大勢が、メディアを中心にある。

「変革を強いられる広大な荒野」で、実在など考えずに、ゆえに変革も考えずに生きる立場と、実在を考え変革を追求する立場では、トウゼン自己満足の基準は異なる。

いまのところ大勢は前者で、そのことはここで何度か「東京最終荒野論」みたいなのをふりまわしてきた。ようするに、実在を考えるどころか、現実を直視することも避け、摩擦の少なさそうな居心地のよさそうな甘さと風俗(流行やブーム)に身をゆだねる。ま、それだって、過ぎてみれば、意志の一つの彷徨にすぎないのかもしれないのだが。

過去の遺産があるうちに自ら変わるのではなく、また過去の遺産を変革のために活用するのではなく、大震災や大空襲敗戦なみの「大崩壊」を目の前にしないと変革に向かわない。そういう、どん詰まりの「変革を強いられる広大な荒野」が、「東京最終荒野」なのだ。

そんなことを考えながら、スティーブン・メネルの『食卓の歴史』(北代美和子訳、中央公論社1989年)を読んでいる。

明日締め切りの、書評のメルマガに連載の「食の本つまみぐい」に、これを載せようと思っている。この連載では、翻訳本は一冊だけ、ジャン=フランソワ・ルヴェル著、福永淑子・鈴木晶訳『美食の文化史 ヨーロッパにおける味覚の変遷』(筑摩書房、1989年)を扱った。

そのとき、「日本の「知性」な問題と自画自賛」というタイトルで、“かりに日本の食文化本から、日本の知性をおしはかった場合、ほんの一握りをのぞいて、アワレ近代以前の状態であるといえるだろう。それは、本書をはじめ、89年の『食卓の歴史』(スティーブン・メネル著、北代美和子訳、中央公論社)、96年の『美食の歴史』(アントニー・ローリー著、池上俊一監修、富樫瓔子訳、創元社)、97年の『食の文化史』(ジャック・バロー著、山内昶訳、筑摩書房)など、ほかにも代表作があるが、近年の翻訳モノをみると歴然で、日本の精神の貧困そしてだからこその食文化ブームやグルメブームどんちゃん騒ぎにゾッとする思いだ。結論を急げば、知識の量は膨張したかも知れないが、合理的精神や論理性に欠けるということにつきる。” と、この『食卓の歴史』の名前だけは紹介している。詳細は、こちらザ大衆食のサイト。…クリック地獄

一度、以前に、この本を取り上げようとしたのだが、うまく原稿を書けなかった。この本は、すごい労作で、すごくよい本だし、訳もわかりやすい。ただ、構造主義の限界を指摘し「発達論的アプローチ」をしているあたりが、おれの知識と低脳では評価が難しく、必読オススメの翻訳食文化本ではあるのに、イザとなると、なかなか原稿が書けない。今回も、ああ、なんで日本には、こういう食文化本が登場しないのだろうか、食道楽本みたいなのばっかで。やはり生きている実在を考える力がヨワイからかなあと考えてしまった。

とにかく、今回は、書けるか。はたして?

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