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2009/10/09

ひな壇の上と下。「上品」と「下品」という言葉は、なるべく使いたくない。

004「ふつうのうまさでいい」「ふつうでいいじゃないか」と俺はいっている。けれど、「ふつう以上でなくてもいい」というと、角が立つこともある。みんな「ふつう以上になるために頑張っている、その努力を、なんと心得る」ってわけだ。いやあ、たしかに、そういう努力をしているひとを批判するのはマナーに反するかも知れない。

でもね、いまどきは、そういうことだから、「ふつうでいいじゃないか」と、なかなか言えない空気もある。そういう空気に風穴を開けたくなるわけだ。窮屈で息苦しいからな。そういう空気って、いいのだろうか、幸せなのだろうか。ひとを幸せにするのだろうか。けっこう無理があって、不幸せを生んでいるんじゃないだろうか。

でも、ま、表現としては、「ふつう以上を気取ることなく」ぐらいならどうだろう。すると、うん、まあ、気取ることはないよな、というセンでなんとかおさまるようだ。

よその国のことは詳しく知らないが、日本で「ふつう以上」というと、ひな壇の上に登ることだ。つまり、「ふつう」というのは、ひな壇の下である。で、「ふつう以上」というと、「ふつうのひとより上に立つ」に直接つながってしまう。だけどね、昔から、ひな壇の下でも、いろんなことに優れた人はいる。べつにふつうの人より上になろうというのではなく、なんてのかな、ひたすら自ら「磨く」ってのかな。

ひな壇の上にあがってひとの上に立つことが目的じゃなくてさ、おれはこれだけのことを知っているとか、きさまはこんなことも知らんのかと、ひとに誇示するためじゃなくてさ。自分の考えに、ひとを従わせるためじゃなくてさ、従わない者を排撃したり排除するためじゃなくてさ。ひとの頭の悪さを侮るためじゃなくてさ。知識や情報で競うためじゃなくてさ。

「いま、日常の環境は、「ふつう」でいることが、とても難しくなっているようだ。いつも「ふつう以上」に向かって追い立てられている感じである。そもそも外食の分野にしても、「厳選」された「特別なうまさ」を競って、激しい競争が続いている。お店も競い合い、客もまた、より「グルメ」であることを競いあう。そんな情報が氾濫し、あおり立てられる。本来おいしいものを食べてくつろぐはずが、趣味を楽しんでいるはずが、人より上をゆく情報を求め競争になってしまう。なかなかシンドイ環境ではないですか。」

ってことで、大衆食堂のことを書いた校正を、おえた。

これ、ある雑誌の「大人の放課後」というコーナーなのだ。その雑誌について書くと長くなるので、べつに近日中に紹介するが、とにかく俺は、「大人」の仲間入りをしたらしい?

「大衆食堂の楽しみ」といった感じのテーマをいただき、約2千字ほど書き、またもや持論の「ふつうのうまさ」を展開したのだが、「大人」のコーナーなので、今回は、少し「大人」らしい表現を考えた。

その文章に、編集さんが「大衆食堂再発見!! 「ふつう」のうまさを楽しむ」というタイトルをつけてくださった。やはり編集さんがつけてくださったリードの書き始めは、「経済大国のはかないバブルの夢、疲れていませんか「美食家」を気取るのは。」である。ね、「気取る」ことはないのですよ。

日本人が「ふつう」のまま「ふつう以上」になれないで、ひな壇の上と下になってしまうについては、「上品」と「下品」という言葉が深く関係しているのではあるまいかと考えた。この言葉は、ヒジョーに、モノゴトを見る目や思考を貧しくしていると思う。

ま、そんなことで「上品」「下品」についてアレコレ考えた。そして、先ほど、右サイドバーのコメント欄を見て、おどろいた。

2006/10/06「ありふれたものを美味しく食べる」に、いただいたコメント、「京都でフランス料理を作ってます。たまたま、うちのホテルに、ロワゾー氏の娘さんが泊ってくださって…」という方だ。フランスの三ツ星レストランのオーナーシェフだったロワゾーさんの自殺については、例のミシュランがからんでいろいろな話があるが、よくわからない、ただこんなことはあってはならない、痛ましいだけだ。そして、でも、ロワゾーさんは、「ふつう」のまま「ふつう以上」になった方だから、いまこうして料理人の方が読んでも感動する、すばらしい言葉を残したといえると思う。

「上品」「下品」という言葉を捨て、「ふつう」の営みのなかにある「豊かさ」に目を向けること。

ちょうど、そんなことがあった、「ふつう」の日でした。まもなく午前1時の、ほろ酔い深夜便。

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