« 大きなカンチガイミス、そして「日本で最も美しい村」連合フェア。 | トップページ | 「さきいか相撲」って、こういうの。 »

2009/11/08

グルメな「大の男」のみっともなさを鋭く突く、女子のオコトバ。

チョイと古い本だが、東海林さだお編の『ラーメン大好き』がある。1982年に冬樹社から刊行され、おれが持っているのは、新潮文庫版、85年初版の92年10刷版。そのなかに、山川緑さんというOLさんが書く、「ラーメン・グルメなんてばかみたい!」がある。これがおもしろい。彼女は、「ラーメン大好き」なんだけど、「ラーメン・グルメ大嫌い」なのだ。おもしろくて、全文紹介したいが、そうもいかない。

「確かにアタシだってフランスでフランス料理食べたり、広東で広東料理食べたりしているとは言っても、たかだか四半世紀にも満たない食生活」「アタシはよくオジサマ連中に食事に誘われて、いわゆる一流レストランだの料亭で食事するけど…」と、文章からして、けっこうなお嬢さんらしい。

「学生時代に同棲していたカレとなけなしのお金を分け合って食べた一杯のラーメンの方が圧倒的においしかった」

「アタシもうラーメンは子供の頃から大好きだった。中学や高校の帰りに寄り道して、クラブの友だちとよくラーメンを食べたっけ。/たった100円のラーメンを食べにくるだけのアタシたちをいつも大歓迎してくれる優しい老夫婦の顔を見るだけで、クラブ活動の疲れなんかフッ飛んでしまった。/アタシはラーメンの味なんか、たいして問題にしちゃいなかった。ただ、ラーメン屋さんが持ってるあの独特の空気が好きだったんだ。素朴で気取ってなくて寛大で」

全部を読むと、この「素朴で気取ってなくて寛大で」が大事な意味を持っていることがわかるのだが。

「たかがラーメン……って言っちゃえばそれまで。でも、考えてもみて。浅草の「美家古寿司(みやこずし)」のお寿司だって、帝国ホテル「フォンテンブロー」のフィレビーフのソテー・トリフソースだって、なにさ、たかだかお寿司であり、たかがフィレビーフのソテー・トリフソースじゃないの」

と断じたあと、こう書く。

「アタシはグルメだの料理評論家だのの言うことはたいして信じちゃいない。自分の口の中に入るものくらい自分で決めたいし、そもそも不況やら食糧難の時代になったらまるで役に立たなくなっちゃうようなユーガなシュミなんぞ身につける気にはなれないし。/だから、自称グルメのオジサマたちの魔手がとうとうラーメンにまで伸びてきたのかと思うとオゾましい。ラーメンのガイドブック抱えて大の男どもが東奔西走してる図なんてコッケーで見ちゃいらんない。タイハイの極みよ」

「どんなにビンボーになっても「おいしいおいしい」って言ってすすっていられるラーメンがあればいいと思う。焼きノリがのっていようがいまいが、チャーシューが厚かろうが薄かろうが、スープがトリガラだろうがトンコツだろうが、そんなことはラーメンにとって、いったいどれほどのことだって言うの!」

彼女は、何に腹を立ているかと言うと、こういう「グルメ」によって、「素朴で気取ってなくて寛大で」が失われていることに対してなのだ。

この時代からあと、食事の場にあるべき「素朴で気取ってなくて寛大で」は、うまいもの好きや粋やイイ趣味を気取る「大の男」、ナントカさんの本を持って東奔西走する「大の男」たちによって、ますます失われることになった。そして「大の男」たちは、飲食を舞台に、ミミッチイつまらない功名心や優越感を競ったり誇ったりしているのである。たしかに、コッケーだ。飲食は、いつの時代でも、大らかな安息のひとときだったはず。

「大の男」は、少々口にあわないものを出されても、悠々と食事を楽しむ余裕があるべきだろう。ましてや、フツウの食事なら、何を細かいことを気にする必要があろうか。うまいものを知っているかのような話を大っぴらにする「大の男」は、気取り屋で自意識過剰で寛容を知らないのかもなあ。

それはそうと、最初のほうの引用にある、「学生時代に同棲していたカレ」は、この感じだと別れているようだし、しかも女子のほうが振った感じがする。その彼は、その後「ラーメン・グルメ」になっていたりして…たりしたらおもしろい。

|

« 大きなカンチガイミス、そして「日本で最も美しい村」連合フェア。 | トップページ | 「さきいか相撲」って、こういうの。 »

コメント

壮快にして痛快ですね。

ほんとに、全文転載したいぐらい。ま、ラーメンにかぎらず、大衆的な食べ物は、暮らしに根づいたものだしね。そこを抜きにしたら、タマを抜かれたようなもの。

しっかし、なんですね、貧しい寒々しい「グルメ」騒動は、いつまで続くのか。「仰々しいステージに引っ張り上げて、ヤンヤとまつりあげるようなマネはもうやめて!」と彼女はラーメンについて書いているのだけど、この20歳そこそこの小娘のいうことがわからなさそうな「大の男」が、まだウジャウジャいるわけで。

だからまた、こういう文章を読むと、すごーく気分が良い。

投稿: エンテツ | 2009/11/10 18:31

壮快ですねー。この彼女らーめんの大切なツボをこれでもかとわかっていると思います。
そう、たかだからーめんなんです。でも、だからこそらーめんてソールフードな感じがするんですよね。人生の場面場面に忘れられない思い出を与えてくれる食べ物、それを偉そうに味だのだけでグルメ蘊蓄たれるって実はとても貧しい感性。本来はもっとあったかい食べ物。
なんかこの記事読んだ今、すごーく気分が良いっす!

投稿: おけい | 2009/11/10 12:29

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: グルメな「大の男」のみっともなさを鋭く突く、女子のオコトバ。:

« 大きなカンチガイミス、そして「日本で最も美しい村」連合フェア。 | トップページ | 「さきいか相撲」って、こういうの。 »