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2010/08/02

偏屈で不器用で非効率。

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おれは、牧野伊三夫編集長の美術系同人誌『四月と十月』に、「理解フノー」というタイトルで連載をしている。この雑誌、同人参加のみなさんが、自分の美術作品(必ずしも完成品とかぎらない)と文章を載せている。みな、美術系の専門家であり、ふだんは文章を書く「専門家」ではないのだが、いつも、とてもよい文章が載る。

ほかに、連載を寄稿しているのは、鈴木伸子さん「東京風景」、有山達也さん「装幀のなかの絵」、言水ヘリオさん「画廊の外の展覧会」、蝦名則さん「美術の本」、牧野伊三夫さん「仕事場訪問」だ。いずれも、タイトルでわかる通り、美術がらみであるし、鈴木さんをのぞいて、「書く」ことを職業にしているわけではない。そして、鈴木さんは、東京人副編集長だった技量の持ち主だ。

とにかく、みなさん、すばらしい文章を書く。そのうえ、美術の方面では、高い評価を得ている人たちだ。いま、これだけの内容の雑誌は、チョイとないだろう。そうですねえ、とびきりうまいといわれる各地の酒を集めて飲んだ気分になれる。

「エンテツさん、やりにくいでしょう」と中原さんにからかわれたことがある。たしかに、やりにくい、書きにくい。「書く」ことを職業にしていないみなさんが、よい文章を書く。それに、それぞれ高い評価を得ているアーチストでありクリエイターであり、その「眼力」や「知識」は並ではないと、その文章からもわかる。ヘタは書けないな、と思わないことはない。

でも、まあ、ほんとのところ、書くときは、そういうことは気にしてない。牧野さんが書かないかといってくれているのだから、おれでも何かとりえがあるのだろうと、ずうずうしく開き直って書いている。

とにかく、これだけの雑誌が、500円ちょっとで手に入るのだから、すごい得だよなあと、いつもおもう。

あれまあ、いきなり話がズレてしまった。

先日発行になったばかりの『四月と十月』の最新号は、26日の「女子美に集まって、四月と十月の話しをします」のときにいただいて読んだ。

有山さんの「装幀のなかの絵」が、「涙と不器用と」だった。

『ku:nel(クウネル)』という雑誌、数冊しか買って読んだことがないが、ご存知の方が多いだろう。有山さんがアートディレクションをやっている、ビジュアルも人気のようだ。『ku:nel』で仕事をしたといえば、クリエイターとして、それなりの実績になる方面もあるらしい品質の高さが評価されるが、高級誌ではない。マガジンハウス発行。

その創刊を企て、有山さんとku:nelの核を創ってきた編集人の岡戸絹江さんが、44号を最後に退社した話が、「涙と不器用と」なのだ。

冒頭の書き出しは、事務所の打ち合わせテーブルを挟んで、有山さんと岡戸さんが30分以上口もきかず、空気が凍りついている場面だ。10年前、ku:nelの一冊目。沖縄まで撮影に行った表紙案が会社の判断でOKにならないという事態。岡戸さんが、有山さんの「我が儘」と会社との板ばさみで、涙を一筋見せたらしい場面だ。

そのあと、どのようにして今の格好になったかのエピソードが続く。雑誌づくりとしても、会社を舞台にしたシゴトということでも、おもしろい。これを詳しく紹介したら、ここに全部をさらすようなことになってしまうから、500円ちょっと出して『四月と十月』を買ってちょうだい。損はしないから。

有山さんの文章の終わりのほうを、勝手に切り取ってみよう。

「ku:nelは岡戸さんそのもの。「偏屈で不器用で非効率」。どれもマイナスな響きを持った言葉だが、ここにこそku:nelが詰まっている。」 略 「これをなし得る多大なるエネルギー、上に立つ者の孤独感、やりたいことと売上げの狭間におけるプレッシャー。これは当人にしかわからないもの。私の我が儘と会社の間に挟まれたことは二度や三度じゃない。岡戸さん、おつかれさま。疲れましたよね。ゆっくり休んでくださいな。私はあなたより若いのでまだ頑張りますよ。新しい編集長と新しいku:nelを作ります。」

ここで有山さんは、長年一緒に仕事をしてきたひとの苦労を、わかったふりせず(たいがい別れの時ぐらいは、知っているふりをするものではないだろうか)、「これは当人にしかわからないもの」と突き放すように言い切る。それは事実だろうし、公平な見方だろう。有山さんらしい、クールといえばクールだが、かえって、読んでいて岡戸さんと有山さんの信頼関係が想像され、ぐぐっと胸がしめつけられるのだった。

そのように、意識された文章のテクニックではないのだろうが、コニクラシイほどいい文章を書かれてしまうので、おれなんぞは、ヒジョーにやりにくいわけですよ。

文章のオベンキョウや鍛錬などないまま成りゆきでライターになってしまったおれにとっては、『四月と十月』は、とてもよい「教材」でもある。

ま、それにつけても大事なのは、人間ですね。

ああ、宵の口から、軽くヨツパライ。

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