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2012/04/21

「川向こう」

このあいだ上野の立ち飲みで、隣のオヤジと話になった。オヤジというが、おれとほぼ同じ齢ぐらい。定年退職後、やることがないので、毎日その立ち飲み屋に来て、気が向けばあたりの居酒屋でも一杯やるのが日課だという。「毎日パチンコやったり、競馬にカネつぎこんだりしているより健全だよ」と。

おれが、住まいはどこなの、と聞くと、言い慣れた口調で「川向こう」と言った。おれは一瞬とまどった。というのも、赤羽あたりで「川向こう」といえば埼玉で、おれは埼玉に住んでいるから、「川向こう」と聞くと荒川の向こうの埼玉をイメージするようだ。埼玉からなら、川向こうの一番近い川口からだって上野までは、歩ける距離ではなく電車賃がかかる。オヤジは、おれのとまどった顔を見て、すぐ「墨田」と付け足した。ようするに、隅田川の向こうなのだ。歩くとちょうどよい運動になるとも言った。

世田谷あたりで「川向こう」といえば、多摩川の向こうになる。少し前、都内のとあるところでビジネスな話になったとき、そこにいた若い男が、「川向こうはニコタマコンプレックスがありますからね」と言った。ニコタマとはセレブで名高い世田谷の二子玉川のことで、ここで当たっている商売を、少し安い値段で多摩川の向こうのたまプラーザや藤が丘でやると、初期投資は少なくすんで利益が出やすいという感じの話で、いくつかそういうビジネスをあげていた。

東京の東のはし、野暮酒場のある小岩で「川向こう」といえば、江戸川の向こうの市川になる。が、ここは、世田谷の川向こうと違い、川向こうの市川のほうが、なんていうか、レベルの高いイメージになるようだ。でも、小岩は、千葉とは違い、なんてったって東京である。近頃は、「暮らしよい」下町のイメージでもあるようだ。

「川向こう」という言い方は、埼玉や千葉から東京を指すことは、たぶんあまりないように思う。どちらかというと東京側からの言い方のような気がする。

だけど、隅田川をはさんでは、どちらも都内だ。たとえば、そのオヤジは、上野で自分の住まいのある墨田を「川向こう」と言ったように、上野へ出るとき、「川向こうへ行って来るよ」とか家人などに言うのだろうか、そのへんどうなっているのか、おもしろい。浅草の川向こうは、墨田区の向島であるし。

それにしても、上野で飲みながら自分の住まいを「川向こう」なんて、チョイと風情がある。それは、隅田川のイメージによるのかも知れない。

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