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2012/11/23

来日中の鄭銀淑さんと北区王子で飲んだ。

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「鄭銀淑」は「チョン・ウンスク」と読む。彼女の肩書は「紀行作家」、『マッコルリの旅』(東洋経済新報社、2007年)を初めて読んで、肩書が恥ずかしくない、うまい紀行文を書く方だなあと思っていた。そのチョンさんと昨日、飲む機会に恵まれた。

そもそもは、石川さん、山下さんと飲む相談をメールでやっていて、その日にちが昨日になったのは、チョンさんの事務所代表にして日本におけるエージェントというか、出版プロデューサーというか、正確には何と呼べばよいのかわからないが、そういう山下さんの好意によるものに違いない。チョンさんは、京都で開かれたマッコルリのシンポジウムに招かれて5年ぶりの来日、今日の昼ごろ日本を離れる予定で、昨日はその前夜だった。

王子の山田屋で18時に待ち合わせ。おれは10分前に着いて、4人分の席を確保。20分ほど遅れて、山下さんとチョンさんが着いたころには、広い山田屋は、ほぼ満席状態になっていた。おれは生ビールから高千代辛口にかえ、山下さんとチョンさんは、焼酎の炭酸割り。

お2人とも、山田屋を気に入ってくれたようだ。たちまち話は、はずむ。ま、『マッコルリの旅』の舞台になっている、デポチプ(マッコリル酒場)は日本の大衆食堂のようなものなのだ。チョンさんは、人柄も『マッコルリの旅』を読んで想像していたとおりの、素敵なひとだった。

チョンさんは労働や労働者との共感を持って書けるひとだ。だからこそ、「労働酒」「大衆酒」であるマッコルリとそれを醸造し愛飲する風土や人びとが鮮やかに描かれ、『マッコルリの旅』は臨場感がみなぎっている。

韓国の大学院を出て、日本に2年間語学留学したことがあるチョンさんは、日本と韓国のあいだにある違いやギャップに、目配りがきくし、自身をもそのなかに置いてみる。

韓国にはマッコルリの醸造所は800ぐらいあるらしい。その醸造所と各地にあるデポチプを訪ねて、マッコルリを飲む。当初は、マッコルリの「利き酒」をしてまわるつもりだった。だが、その目論見は、簡単に崩れる。それが、かえってよかったと思われる。

マッコルリは「もちろん、甘さ苦さ、香りや濁度など、地方ごとに大まかな特徴というものはある。しかし、日本の清酒や焼酎のような強い個性というものは感じられなかった。これは地酒が多様に発達した日本とは文化的成熟度に差があること、マッコルリが我が国では時代遅れな酒だということもあるだろう。地方景気の深刻な冷え込みも無縁ではない」「そもそも、炎天下で仕事をする人たちが渇きを癒すために飲んだ大衆酒を、日本人的感性で利き酒して回ろうなどという発想が野暮だったのかも知れない」

そして、「10年近く日本の仕事をしているため、個人主義が身についてきた私だが、今回の取材では久しぶりに暑苦しいほどの情の海に身をゆだねた」

日本では、マッコルリはブームといってよいほどなのに、韓国では衰退気味であり、チョンさんの旅はマッコルリの再生を願ってのものだった。

全羅道・忠清南道の旅、14地域。忠清北道・安東の旅、6地域。釜山・慶尚道の旅、4地域。江原道・京畿道の旅、11地域。これらの地域にある、醸造所やデポチプを訪ね歩く。ヒッチハイクをしたり。アポなしの「突撃取材」だから、ときには悲しい思いもする。

デポチプには、「ハンバチプ」なるものもある。「ハンバ」は日本の「飯場」からきている。地方には昭和の日本の置き土産である、建物も残っている。

デポチプには、店を仕切る日本の女将のようなおばさんがいて、彼女たちを囲んで、地域の人びとの交流がある。飲めば歌が出て、踊りになることも。

「マッコルリの味が地域ごとに違うように、民謡「アリラン」も地域によってさまざまだ。(略)民謡はたいてい労働歌の役割を果たしてきたが、「蜜陽(ミリャン)アリラン」はもっともエネルギッシュなアリランに違いない。マッコルリを一杯飲んで「アリランアリラン、スリスリラン」と口ずさみながら、力仕事に精を出したのだろう」

38度線に近い鉄原で出合ったマッコルリは「38線(サンパルソン)マッコルリ」。チョンさんは書く。「これほど「らしい」名前があるだろうか。そして、これほど悲しいマッコルリの名前があるだろうか」

ガイドブックやマッコルリの知識に役立つ実用書仕立てだけど、すぐれた紀行文学だと思われる本書は、ただいま絶版中。だけど、うれしいことに、今年中に電子書籍で再版される予定だ。また最近、韓国語版でも出版されたそうだ。

チョンさんの著書は、ほかに『韓国・下町人情紀行』(朝日新書)、『韓国の人情食堂』(双葉文庫)、『韓国「県民性」の旅』(東洋経済新報社)が、まだ読んでないまま手元にあるので、これからゆっくり読むとしよう。

そうそう、それで、昨夜の飲みだが、石川さんは社長につかまって、けっきょく1時間以上の遅刻。彼女は東京に席をあたためている間がないほど、出店ラッシュで文字通り東奔西走、忙しい。

21時閉店の山田屋を出て、イチオウ福助へ行ってみたが、やはり一杯で入れず、串の介も混んでいたがなんとか座れて、23時頃まで。

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