« 「ホンとの出会い」 | トップページ | 「書評のメルマガ」の『料理の四面体』。 »

2017/09/03

寿町ならではの水族館劇場、水族館劇場ならではの寿町。

001001

「うそがまことか、まことがうそか」「夢のようなまぼろしこそ、まことかもしれない」とかなんとかの水族館劇場が、横浜は寿町でブチあげるとあっては行かないわけにはいかない。漂泊の劇団、漂泊の人びとが流れ込み漂う寿町。

9月1日初日の舞台を観るべく、埼玉は大宮の奥からはるばるきたぜ横浜。遠い遠いはるかな道、めったにないことだから、まず芝居の始まりは浅見本店の角打ちだ。「うそがまことか、まことがうそか」ここのおばさん、10年前5年前いつからか、ちっとも老けない。上手に化粧して可愛い角打ち舞台俳優。古い大道具の店も、そのまま健在だ。

021001一杯ひっかけて、つぎなる舞台は大衆食堂の埼玉屋。埼玉から埼玉へ、いい食堂だねえ。「雪印ミネラル牛乳」のコップで飲むビールは格別。勘定してあまりの安さにおどろいて、聞き返した。

さあ前座は上々、いざ本舞台「盗賊たちのるなぱーく」へ。行きつかないうちにふらふら入って行きたくなるまぼろしのような飲み屋横丁を、がまんして通り過ぎた。

18時半着くと同時ぐらいに、まいどの小屋の前でのプロローグが始まった。これまで観たなかで最も広い敷地を使った屋外舞台。街の景色を背景に水族館劇場の大仕掛けのおもしろさ。

じつは、初日を観ることについて危ぶむ声もあった。なにしろプログラムにも「台本+遅れ+総監督:桃山邑」と堂々とあるぐらい、台本が遅れ初日も未完、役者はセリフを覚えるまもなく舞台に立つ。日が重なるにしたがい整い充実していく。おなじ料金なら初日は避けたほうがよい、とおもうのは当然だ。

027001だがしかし、ものは考えよう、初日ならではの不完全さこそ、「うそがまことか、まことがうそか」というものだ。

芝居のお題は「もうひとつの この世のような夢」のあとに小さく「寿町最終未完成版」と、開き直っている。で、その「もうひとつの この世のような夢 寿町最終未完成版」の不完全版を観たわけだ。

いやあ、あいかわらずたのしめた。セリフのとばしぐあい、アドリブの多発、役者の数が足りないようす、不完全の完全はじつにたのしい、この世のような夢さ。

031001今年は、不幸なことに、水族館劇場を観るのは二回目だ。なんとうれしい年だろう、春にも新宿・花園神社で、「この世のような夢」を観ているのだ。今回は、そのバージョンアップ版のはずだが、ストーリーは混迷を深めたというか、あのハナシはどうなったのよ、というところもあり、役者の入れ替わりもあってか、突っ込みどこ満載というのがたのしい。

「この不完全ぐあいがいい」とは、花園での打ち上げのときに、どこかの大学の演劇の専門家だかなんだかがいっていたな。不完全な人間で埋めあって、不完全なこの世はある。

さて、それで、最後がよかった。舞台の最後は、圧巻、まいどのように大量の水が滝のように落ち、背景が割れて終わった。

すると、その向こうの夜景のなかに、クッキリ赤い文字の「居酒屋」の暖簾があるのだ。そこまで計算して舞台設計をしたのか。まさかね。

で、そこがエピローグの舞台になった。小屋を出て、ぐるりまわってその「居酒屋」へ。間口は小さく、10人は、入れそうにない店内。カウンターのなかに猫ちゃん抱えた、若くはないが老けてもいないママ。スナックなかんじのカウンターに男が一人。

この店が芝居の最後に見えた話しをする。窓越しに小屋を見れば、割れた舞台は灯りもそのままで、おれが座っていた階段の座席あたりが見える。「ほら、あそこから見えたんだよ」。ママは、小屋が建ち始めるときから、いったい何が始まるのかと見ていたから、興味津々だったようだ。それでまあ、盛りあがった。

男の客が「よく4800円も出して観るねえ」というのに、「いやあ、芝居なんて、やるアホウと観るアホウですよ」と大笑いしながら、もう一杯、もう一杯。

でも、2時間かけて埼玉まで帰らなくてはならない。外へ出たら、水族館劇場の夜の幕引きにふさわしい風と雨だった。

おれはヘソマガリのせいか、料理にしても、どうだこの完成度を味わえというようなものは、あまり興味がわかない。今夜の水族館劇場の不完全度には脱帽。帰りの電車で、おれも、いつか、堂々と「ナントカカントカ未完成不完全版」というタイトルの本を、全力ふりしぼって書きたいものだとおもった。

桃山さんは、プログラムの挨拶文で、宮澤賢治の「永遠の未完成これ、すなわち完成」であるを引用している。そういってしまってはオシマイというかんじがしないでもないが、完成形なんてツマラナイものだとおもうね。この世の不完全さ未完成さこそ「まこと」だろう。

この公演、9月の5日までと13日から17日までやっています。この劇場体験は、4800円出しても、惜しくはないですよ。さすらい姉妹こと千代治と風兄宇内という、すごい役者もいる。音楽もいいね。舞台美術もこっているね。

045

049002

|

« 「ホンとの出会い」 | トップページ | 「書評のメルマガ」の『料理の四面体』。 »