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2003/12/02

貴賎意識と肉食

「アイレディース宮殿黒川温泉ホテル」が国立ハンセン病療養所「菊池恵楓(けいふう)園」に入所する元患者らの宿泊を拒否した問題は、ホテルを経営する「アイスター」が、「人権侵害と宿泊拒否は別問題。人権を無視した考えはまったくない。宿泊拒否はホテルとして当然の判断だった」と開き直って決着したようだ。前にも、ちょっと書いたと思うが、アイスターは「"美しく 心とともに美しく"」でやってきた。

その「美」だが、日本の場合は、背後に貴賎意識があって、それが差別意識の根深いところを形成していると思う。これは食べ物に深く関わっているのだが、一膳めしを「賎人の食なり」といったりした。蕎麦も寿司も天ぷらも、そのように言われた。その「賎」は同時にキタナイモノをも意味していた。

どの社会でも優劣観はあって、それに食べ物がつきまとっているのが普通である。しかし、それは現実の社会階層、つまり貧富の差であって、ジャガイモやキャベツは「貧しき者が食べる」といっても、「貴賎意識」とはずいぶん違うのだ。

日本の人権意識の低さは、この貴賎意識が、ごく最近までオフィシャルなものであり、この「アイスター」の態度が示すところでは、依然として健在なのである。その「美」は「貴」で「上品」であり、それにそぐわないものは「醜」で「賎」で「下品」なのである。その意識が、まだ依然と強いものであることを、アイスターは包み隠さず開き直ってみせてくれた。

今回の人権問題はともかく、この貴賎意識のために、日本の食の歴史、とくに肉食の歴史がはっきりしない。「貴」の「美」は、上辺のキレイゴトが好きで、とにもかくにも、「貴」で「美」で「上品」なる感情が、気持よいのでなければならないのだ。じつに感情的である。彼らには「公平」とか「平等」とか「客観」とか「事実」とかいう言葉はない。そして血みどろの肉はキタナイ。

モツ煮込みや肉煮込みなどは、あきらかに江戸期にはあった。資料が手元にないのだが、牛肉食は平安期に行われている形跡があるようだ。これらすべて「賎民」のことで、なにしろ、つい半世紀ほど前までは「貴」の代表者たる天皇の時代であったのだから、なかなかわからない。そこに日本人の自己認識と社会認識を困難にする一因もあると思う。

しかし、ボチボチとだが、はっきりしてきてはいる。「豚は御一新前に大いに流行った」とか、「犬鍋屋」もあったとか。

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