清酒と焼酎
女…でもあなたは清酒が好きですわよ。
男…そりゃ、ガキのころから清酒だからね。ドブロクだって飲んだぞ。だからといって、ほかの酒がマズイということじゃないし。清酒は清酒のよさ、焼酎は焼酎のよさ。おれの田舎は越後の米どころだから、おれがガキのころは、焼酎は貧乏人の飲む酒といわれていたよ。
女…そんな新潟の片田舎まで焼酎があったのですか。
男…あったよ。白波とか寶とかが。で、焼酎が安かったのは、酒税法上の扱いの違いで、焼酎そのものが問題なわけじゃなかったけど、焼酎は「安い」「臭い」だから貧乏人の飲む酒という偏見ができたのかなあ。なにしろ、なにがなんでもコメがイチバンという土地柄だったから。
女…焼酎は、ニオイや味にクセがありますよね。
男…だから、あんなにクセのあるものがブームになるというのが、おもしろいね。焼酎は、清酒と比べたら、猥雑な味覚のものだよ。清酒は、名前からして清新で、ニオイはあるけど焼酎とちがって、ほのかな香りで、なんとなくお上品というのかな、それに対して焼酎は「民衆の酒 焼酎は」って、うたわれたぐらい労働者の酒で、文化的にまったくちがうね。
女…焼酎の香りが好きという女のひとも少なくないですよ。
男…だからさ、それが面白いね。たしかに、イモ焼酎のニオイなど、なかなかいいんだけど、清酒とくらべたら、そうとうクセがあるよ。女のひとは、クサイ香水を使うようになったから、焼酎のニオイにも抵抗がなくなったのかな。
女…香りを楽しむということが多様になってきたということでしょうか。
男…さあな。とにかくおれは猥雑系のものが偏見なく受け入れられるようになったというのが面白いと思っている。
女…もう「幻の焼酎」なんてのもありますし。
男…すぐそうなっちゃうってのがね、しょうがないんだけど。「幻の酒」としては先駆の越の寒梅は、幻の酒をつくろうと思ってつくっていたわけじゃなくて、大きな流れがアジノモト化するなかで、コツコツ地元のひとのための酒をつくっていただけなのさ。あそこの姿勢はいまでも一貫しているけど地酒だね。つまり「地酒は本来、地元の食材とともに味わってこそ価値が生まれるもの」ということだね。新潟もかつては、地域がちがうと酒の味がまったくちがっていた。
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