武士道とめし
男…明治維新があって富国強兵の産業革命はあったけど、市民革命も文化革命もなく、むしろ逆に武士階級の道徳観や規律つまり武士道が、一般庶民にまで強要されたのが近代だった。それは国民皆兵ですべての男を軍人として、女は良妻賢母の軍国の母として育てるためだね。それで1970年代の前半になっても「男子厨房に入るべからず」「男が食を語るはみっともない」の風潮があった。
女…でも、おかげで日清日露では勝利し、日本は外国の侵略を受けずにすんだではありませぬか。
男…そんなこたあ一貫して政府の宣伝で、外国の脅威をどうみるかと、どう対応するかで、当時ですら政府や軍隊のなかで考え方はいろいろだったのさ。それなのに勝てば官軍、勝った勝ったで、「神州不敗」つまり天皇の国は負けを知らないなどと驕り、ついにこの間の大戦では外国に支配されることになった。
武士道の武士は再び破れ、で、武士道に殉じ切腹したひとも少なくはなかったけど、たいがいは「生きて虜囚の恥を受けず」なんていいながら生きて、なおかつ戦後において影響力を保持して、まだ政府の高官が「武士道」を説く始末。
しかし、武士道は、江戸期の武士階級のあいだで完成されたものだから、もともと食べ物は自分たちでつくるという自立の思想はない。誰かがつくったものを食べながらであろうが、外国の輸入に頼ろうが平気なんだな。無頓着なんだよ。いまの日本が外国の食糧に頼って平気なのは、そういう武士道の支配と関係あるかも知れない。だいたい武士道には、生産のよろこびとか生きるよろこび食べるよろこびなどないのだからね。
女…武士道と云ふは死ぬ事とみつけたり。
男…自己陶酔の極地だね。めしは、どうするのだ。
女…武士は食わねど高楊枝。
男…刀ふりまわす以外に能がない、だらしのない男の姿だね。本当に食わなきゃ死んじゃうよ。腹が減っては軍(いくさ)ができぬ。というのに。自分のめしのことぐらい自分でやる思想がなくては生きていけないのが現実だよ。だからな、今朝は、昨夜のおでんとおでんの汁をめしかけて食べたぞ、うまかったなあ。
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