悩ましいカレーライス
「いっぽう『西洋料理通』のカレーは「カリド・ウイル・ヲル・ファウル(curied veal or fowl)つまり「カレー粉で肉(仔牛 こうし)や鳥を料理すること」という注がついていて、「肉や鳥の冷えた残り肉を、刻んだネギとリンゴ、カレー粉、小麦粉と水か白汁(米のとぎ汁)で煮てユズ汁を入れる。これを輪状に盛ったご飯の真ん中に盛る」となっている。(カッコ内は著者注)」
これは、『カレーなる物語』(吉田よし子、筑摩書房)のなかの著述だ。第一刷発行が1992年3月の1995年4月発行の第3刷からの引用。
拙著『汁かけめし快食學』では、カレーライスを汁かけめしの歴史に位置づける試みが眼目だったので、インドを元祖や本家とするカレーライス伝来説の著述のヘンなところをイチイチあげつらねるのは最小限にしたから、この点については、触れてない。
きのう、図書館で見たら、この本と同じ著述の本があった。この本は、たぶん、おれの本などより売れているだろう。見ている人も多いだろう。だから、ちょっと書いておこうかな、というわけだ。
この引用の部分には、このテの本を書くにしては、ヒドイ間違いがある。
誰にも誤りはあるし、いろいろな条件のなかでの著述は完璧ではありえない。でも、この誤りは、そういうたぐいとは違うのだ。
「(かっこ内は著者注)」とあるのは、「白汁(米のとぎ汁)」をさしていて、「白汁」についてワザワザ著者は「米のとぎ汁」と注をつけた。なぜそんなことをしたのか。ということは、またの日の話にして。それは、インドを元祖や本家とするカレーライス伝来説を主張する著者にとっては必要なことだった。
しかし、これはヒドイ間違いだし、そもそも、この記述がある隣のページには、『西洋料理通』の原本から、その部分を撮影した写真まで入っているのだが、そこには「水或は第三等の白汁いづれにても」とある。そして、「第三等の白汁」は、この『西洋料理通』を最初から読めば、第一章の最初に出てくるもので、「米のとぎ汁」などではない。つまり、著者は、あきらかに、『西洋料理通』を読まないか解読してないのだ。
ほかの本の解説ならともかく、『西洋料理通』は、インドを元祖や本家とするカレーライス伝来説のカギになる「史料」だろう。インドを元祖や本家とするカレーライス伝来説にとっては「第一級の史料」といってもよいだろう。それなのに、このお粗末は、なんなのだろうか。
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