入谷コピー文庫と谷よしのと女中のウダウダ
入谷コピー文庫、聞いたことないだろう。編集発行、堀内家内工業、知らんだろう。
テーマは筆者の自由で、A4サイズ10枚以上30枚以下で原稿を仕上げ、堀内家内工業に渡すと、それを15部だったか17部だったかコピー製本して配布するという仕組みだ。「30枚以下」と決めてあるのは、それ以上だと「ホッチキスの針が通りませんので」ということなのだな。
この酔狂としか言いようのないマジメな「出版社」に、執筆を頼まれた。こういうのは好きだから、もちろん引き受けた。原稿料なんてタダと思っていたら、原稿を渡さないうちに、図書券が送られてきた。堀内家内工業は、ビンボーなのに、律儀度がちがうなあ。
書きたいテーマは決まっているので、そろそろ書こうかと、このまえ見本でもらった5月発行の『谷よしの映画人生』をパラパラ見ていた。著者は、阿部清司さんだ。現在88歳の谷よしのさんからの聞き書きだ。読んでいて、「女中」のことが気になってしまった。谷さんは、男はつらいよシリーズで、女中役をたくさんやっている。堀内さんも編集後記で、こう書いている。
例えば「男はつらいよ寅次郎夢枕」の中では、谷さんは女中役で次のように登場する。
●旅館の一室
手酌で飲んでいる寅。女中たちは隣室の騒ぎに加わっているらしい。
空っぽの銚子に手を叩く寅。女中ようやく一人やってくる。
女中「何か御用?」
寅 「酒だよ、酒ねえよ」
女中「はいはい、ただいま」
たったワンシーンの台詞ながら、谷よしのさんは印象的なのである。
……引用オワリ。
谷さんは、1917年生まれ。おれは自分の母親の生れ年を、もう正確に覚えていないのだが、たしか同じ年の生れである。この年代の女は、女学校へあがれないようなフツーの貧乏大衆の家庭の育ちならば、女中経験のある人が少なくない。おれの母親も、短いが女中を経験している。それは、旅館や飲食店のこともあれば、個人の富裕な家庭のこともあるが、ま、そうか、近年は「家政婦」とかいう呼び方もあるが。女が、外で働くとなると、工員か女中が圧倒的に多かったのだ。それから、おれの母親などは、「女は一生女中働きよ」と言っていたものだ。で、その女中たちは、食に深く関わっていたのだが、しかし、その、なんてのかな、女中の歴史もないし、女中と食の歴史もないのだな。と、まあ、ふと、そんなことを思ったのだが。
そんな女の時代があったから、谷さんの女中役も、大切だったのかもなあ。女中の時代を生きた名女中役、なんていう見方もできそうだ。ほとんどの女中は、無名のまま歴史に足跡を残さないが。
ってことで、この入谷コピー文庫に書こうと思っていたテーマを変えて、昭和の食と女中について書いてみようかとも思ったが、女中に関する資料が簡単に集まりそうないなあ、とかウダウダ考えているうちに、ああっ。
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