トレンドとスタンダード
主に広告屋(めんどうなのでマーケティング屋も含める)が使っていた「トレンド」ということばが、普通に使われるようになったのは80年代はじめぐらいだったと思う。それまで黒子の役だった広告屋がメディアの前面に躍り出て、「仕掛け人」「マルチプランナー」とかもてはやされ、企画の立て方などの本がブームに。
「ネアカ・ネクラ」「軽薄短小」なる、いかにも広告屋っぽいことばが流行り、明るく軽い浮ついたフンイキのなかで、グルメが勢いをつけた。85年ごろ「グルメ」が流行語。「第四次産業時代」を日経新聞は高らかに煽動し、情報産業を中心にベンチャー企業なるものが台頭する。外食産業と情報産業はなやかなりしころ。重厚長大の輸出産業を中心に伸びてきた日本経済は、「円高不況」という体験したことのない不況に直面し苦悩し、「発想の転換」が求められていた。ようするに日本船はフラフラ漂流し、その甲板でネアカがグルメや情報化をやりながら浮かれていた。なんだか、まだおなじ続きのようだな。
マーケティングは、トレンドを追いかけるものになり、「キーワード」と「トレンド」で世界を把握する、あるいは表現することが、大メディアでも主なトレンドになっていく。スタンダードなんかカネにならない。そもそも過去のスタンダードは崩壊したのだ。過去のスタンダードの上にのっていたものは、クライ、ダサイ、古い、いらない。
天下の広告屋、博報堂トレンド研究会の『コンセプトノート84』(PHP研究所、1984年)、新書版で広告屋以外のビジネスマンも読んだ、「トレンドが読める、明日が見える」の煽りコトバがついている。スタンダードの崩壊を、広告屋らしく、そういうコトバをつかわずに、「コントロールボード社会がやってきた」と特徴づけている。各章の見出しは、こんなぐあいだ。
コンセプトⅠ・「頂点」(いただき)
第一章 「ひとなみ」を超えようとする人たち(サブ・コンセプトに「フィジカルエリート」「豊かさのギャップ」「ソフトポジション」「センスエリート」)
コンセプトⅡ・「生一本」
第二章 いま、最も感動を呼ぶのは何か (サブ・コンセプトに「おもしろまじめ」「粋(イキ)まじめ」「ぶきようまじめ」)
コンセプトⅢ・「ローリング・マインド」
第三章 どこまで拡がるブランコ(浮遊)空間(サブ・コンセプトに「変身願望」「レンタルマインド」「へたうま感覚」)
コンセプトⅣ・「ハンドリング」
第四章 消費者はイスに座って待っている(サブ・コンセプトに「情報ハンドリング」「マネーハンドリング」「タイム・ハンドリング」「ファッションハンドリング」)
コンセプトⅤ・「居直り」
第五章 主役を演じるマイナー・パワー(サブ・コンセプトに「新復古主義」「我慢・忍耐主義」「本音暴露主義」「回顧・懐古主義」)
コンセプトⅥ・「知的」
第六章 経済的豊かさを得た大衆(サブ・コンセプトに「あたま世直し型」「おすき?型」「こころ型」「ブリッ子型」「友達の輪型」)
コンセプトⅦ・「胎内感覚」
第七章 「いごこちのよさ」がヒットする(サブ・コンセプトに「砂場マインド」「たんでき感覚」「おもしろ不安」)
コンセプトⅧ・「笑楽」
第八章 いま、何が不安を忘れさせるか(サブ・コンセプトに「自己露出症候群」「おもしろ探し」「ゲーム感覚」「フレッシュ・ジェネレーション」)
コンセプトⅨ・「たこつぼ」
第九章 さびしい世代にどうアプローチするか
終章 コントロールボード社会への対応戦略
これは広告屋が各分野の企画関係者にプレゼンテーションするような表現になっているので、わかりにくいところもあると思うが、落語ブームなど、ようするにコンニチ見られる現象がたくさんあるし、グルメの流行は、まさにこういう環境と「仕掛け」のなかで成長したものだった。
それはトレンドを追いかけるだけで、スタンダードに対する感覚も関心も思考も、すでに失われていた。そのトレンドは、やがてニッチといわれる、スキマ、つまりは、いままで情報化されていなかった小さな分野にまでおよぶ。そして、けっきょく、小さな分野にまで、お互いにマーケしあう「マーケ社会」ができた。名刺交換一つ、はがき一枚のことばが、乱交のような飲み会まで、ビジネスチャンの出会いをつくるマーケティングとして、経済活動に位置づけられた。ま、こういう私的な日記にもなるブログにしてもだが。生業者が小さな地域の客を相手に細々とやっていた酒場や飲食店まで、あまり生き場のなかったライターなどのシゴトで、マーケットになった。
とりあえず、今日は、ここまで。酒飲まなくちゃ。忘れなかったら、明日に続く。
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