ようするにコクという日本人の証明
拙著『汁かけめし快食學』というより、その本のもとになった『ぶっかけめしの悦楽』を読んで、そのスゴイところに気がついた人が、おれの知るかぎり二人いた。あれからもう5年以上たっているのか。少しずつ状況は変わってきているようだ。
『ぶっかけめしの悦楽』だと27ページに「ようするにコクということ」の見出し、『汁かけめし快食學』だと62ページに「ようするにコクという日本人の証明」がある。そこのところだ。これは、とても重要なところなのだ。が、しかし、書き方としては、それほど強調しているわけじゃなく、さらさら流している。まずは「汁かけめし」を楽しむことだからね。それに、ま、おれのような名もなきフリーライターが、しかもアヤシイ文章で、そのようなことを書いたところで、さほど注目されないのがトウゼンといえばトウゼンだろう。それはそれでよいのである。でも、理論的な核心部分は、そこなのだ。
先日紹介の『談別冊 shikohin world 酒』には、「酒におけるコクとキレ」というタイトルのインタビュー記事があって、京都大学農学研究科教授の伏木亨(ふしきとおる)さんに佐藤真編集長がインタビューしてまとめている。これを読むと、さすが学者研究者であり、また食文化や味覚文化に造詣のある佐藤真編集長のインタビューであり、おれの「ようするにコクという日本人の証明」を補完する、といっては失礼か、えーと、ま、やっぱりそれなりの人が、こういっているとなると、おれもけっこう強気になれるわけだな。いつも権威が何を言おうが強気だけどさ。
強気だぞ。「コク」は、日本人の味覚あるいは、日本文化を理解するために、これから、もっと注目されると思う。食文化に関心があるかた、食について何かこれからやりたい方は、あるいは日本人そのものを理解するためにも、『汁かけめし快食學』と合わせて『談別冊 shikohin world 酒』を読むことを、オススメしますよ。またすでに読まれた方は、『汁かけめし快食學』は、何度も読むほどにコクが出ますよ。
『汁かけめし快食學』は、多くの方にとっては、たぶん想像外だろうが、日本人の味覚と料理のスゴイ大事なところを先見的に取り上げ、そして国民食といわれるほど普及したカレーライスは味覚からしても調理からしても伝来のものではなく、従来の日本の味覚であり調理だとしているわけだけど、そのカナメは、コクにあるってわけですよ。
料理するひとは、もちろん、食べ歩きや飲み歩きにせよ、ここんとこを理解できているかどうか、これから問われることになるでしょうな。いいからかげんの味覚の理解では、読者に対しても失礼になるだろうし。これまでの上っ面をなでるだけの話では、だんだんすまなくなるにちがいない。伏木亨さんは、昨年、『コクと旨味の秘密』(新潮新書)を出されているようだし、そうなること間違いないと期待したい。
ま、これまでのうまいもの話や、食べ歩きや飲み歩きや、カレーライスの歴史だのなんだの「元祖」だのなんだのという話は、まったくおかしなことだらけで、ちったあ改められなきゃいけないね、いつまでもおなじ寝言を「文学的表現」でとっかえて言っているようじゃ、進歩がないってこと。
そういうわけで、佐藤真編集長の質問だけ、その一部をここに羅列しよう。伏木亨さんが、どう答えているかは、買って読みましょう。
◎◎1980年代後半に「コクがあるのにキレがある」というビールのコピーが出ました。コクとキレというのは矛盾する要素なのに、飲んでみるとなんとなく実感できるところがあって不思議です。そもそもこのコピーで初めて、私たちはコクやキレといった酒の「味」を認識したのかもしれません。しかしそれが実際どんな味なのかといわれると、よくわからない。コクとは具体的に何なのか、主に日本酒をテーマにお聞かせください。
(ここで伏木さんは「実体をそぎ落としたコク」について語る)
◎◎実体がないわけではないんですね。
◎◎粋みたいなものに通じてくる。
◎◎先生は『コクと旨味の秘密』(新潮新書)でコクを三層に分けています。……
◎◎そうすると、清酒の淡麗辛口志向も当然の流れだと。
◎◎わかりにくさが大事なんですね。
◎◎それは日本酒だけでなく、ほかの酒にもいえるでしょうか。
◎◎ワインにも淡さやほのかさに類する表現はありますね。
◎◎日本人はいろんな料理を食べていますよね。それにあわせて酒も変化してきたんでしょうね。
「コクは複雑」の見出し
◎◎確かに日本人が酒に味覚を求めるようになったのは、グルメ、飽食といわれて以降のことですね。
◎◎それもバロックみたいにゴテゴテさせるのではなくて、そぎ落としていくというところが面白い。
◎◎料理も最近は「甘さひかえめ」で。
◎◎コクとはいろんなものが混じり合った複雑な味であること。さらに、バランスが重要なのですね。
◎◎コクを消しつつ、それがまた隠し味になっていたり。
◎◎コクというのは実は複雑なわけで、それを理解するのに、お酒はいい学習材料になりますね。
◎◎先生はおいしさと脳内物資の関わりの研究もなさっていますが、酒のおいしさはどうなんでしょう。
◎◎うまみ(umami)が世界共通の味として認知されたように、コク(koku)も味を表す共通語になるかもしれません。もしかしたら、究極のコク物質が見つかるとか……。
◎◎最近、流行しているスープカレーも一見ジャブジャブしていますが、やはりダシを入れてコクを出していますね。
「焼酎はコクより香り?」の見出し
以下略
コクは、きのう書いたが、猥雑性とも関係あるようだ。「猥雑性」が洗練されバランスがとれると「コク」になる、というかんじかな? 猥雑性や雑味は否定すべきではなく、バランスさせることが大事ってことになるのかな? 考えれば考えるほどおもしろい。
「味」と「味覚」を厳密に分ければ、コクは「味覚」であって「味」ではないような気がする。『汁かけめし快食學』では、そのようにアイマイに書いている。はて、しかし、「旨味」だって、長いあいだアイマイな「味覚」あつかいだったのだから、はて、どうなるか? オモシロイ。
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