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2006/04/08

浪花節も料理も日本の味はコクだねえ

昨年夏ごろからの年寄りの病気騒動から、なんとなくアレコレあって、浪花節や渡辺勝さんのライブへ行くチャンスがなかったが、昨夜は久しぶりに浪花節。東中野ポレポレ坐で玉川美穂子さんの「浪曲浮かれナイト」。

入口で小沢信男さんとバッタリ。そのまま並んで座ったのだが、コレが、なんと、この日の美穂子さんの新作披露は、小沢さんの原作「悲願千人斬の女」(筑摩書房)つまり松の門三艸子(まつのとみさこ)が主人公なのだった。原作者と並んで、初めて聴く新作浪曲、ってことになった。得したねえ~。曲師(三味線)は、惚れてるよ~、沢村豊子さん。

前半は、大正期の売れっ子浪曲師の真似で始まり、緊張の色があったが、古典「甚五郎旅日記掛川宿」の後半あたりから調子が出てきた。続いて浪曲トークと沢村豊子さんと組んでの三味線「しゃみしゃみいず」。浪曲トークでは、浪花節を始めたキッカケなどを語っていたが、もともとは三味線を弾いていたのだ。おれが始めて玉川美穂子の名前を知ったのは、何年前だったか、2000年ごろだったか? 若手が組んで浪曲会をやっていた新宿のシアタープーで、まだ必死の形相で三味線を弾いていたのだった。

ま、とにかく、「悲願千人斬の女」が終ったあとの拍手喝さいは、おれが浪曲会場で始めてみる熱気な光景で、しかも、浅草の木馬亭とは客層が違い若いし、いかにも山の手風気取りのある知性なクールなオシャレなのよという会場の雰囲気が、一気にぶちこわれ拍手喝さいでゆらいだのだった。原作者の小沢さんも、途中なんども声を出し、あるいは笑う状態にて。猥雑な芸、猥雑な興奮、これ、まさに浪花節ではないか。これ以上説明はいらないだろう。

9時ごろ小沢さんと会場を出る。会場で会った小沢さんの知人二人が加わって、すぐ近くの戦後闇市跡の猥雑飲食街、東中野食堂がある横丁「ムーンロード」へ。一人でも帰りはここに寄って一杯やってから帰ろうと思っていた大衆酒場「みや」へ、小沢さんが導く。あれっ、どうして小沢さんが、ここを知っているのかと思っていたら、小沢さんが解散させた新日本文学の事務所が、この奥にあって、「みや」は溜まり場になっていたのだそうだ。女将さんとも顔馴染みなところをみると、かなり通っていたのだな。

玉川美穂子絶賛のち新日文やらアナーキー系やらあちこちに話はとび、人生80年の小沢さんのコクのある話を酒飲みながら聞けたのが、ホント、よかった。「文学というのは支配者のものだったのだから、そこをどう超えるかなんだよ、自分がかわって支配者になればよいというのじゃダメなんだよ」「相互批判てのは大切だね、そういう場は必要なんじゃないかな、最近は仲良しグループばかりだから、そのへん」、うーむ、いかにも小沢さんらしい。

最後、次回、「悲願千人斬の女」の続きを聴きましょうと別れた。浪花節は、だいたい、グワーッと盛り上げていいところで「ちょ~ど、じか~んとなりましたぁ~」と終る。なにかモヤモヤを残す、そこも芸なのだな。この日は、まだ三人ぐらいしか斬ってないから千人斬まで、あと何回か……。「悲願千人斬の女」は、以前原作の紹介を、このブログに書いたと思うが、幕末から明治の動乱期が舞台、いまよりはるかに女が生きにくい時代に、思い切り自分の思うさまを生きて、男千人斬を達成し赤飯をくばり、歌人としても名を残した松の門三艸子の猥雑人生の物語だ。この日の拍手喝さいには、その思い切り自分の思うさまを生きる姿への共感もあったような気もする。そこにイマと、浪花節の新しいテーマの可能性を感じた。人生、気どって生きてちゃ、実にならん、ってこと。

猥雑を猥雑なまま洗練させるとコクになる、そこなんだな大事なのは。一層コクの増した玉川美穂子さんの浪花節、あいかわらずコクのある沢村豊子さんの三味線、コクのある東中野闇市跡横丁、コクのある酒場「みや」で、コクのある小沢信男さんの話を聞いて、いやあ、よいコクのある日だった。クールに計算高くすかした時代を、猥雑力のコクでぶちやぶれ。

ポレポレ坐での玉川美穂子ほろ酔いライブ「浪曲浮かれナイト」は、次回は、7月7日、その次は10月6日。

玉川美穂子さんの「たまみほ日記」

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コメント

いやあ、楽しかったです。
これからも、楽しみです。
ま、思い切りやってください。

投稿: エンテツ | 2006/04/09 08:41

エンテツさん。お久しぶりでした。来ていただいて、本当にありがとうございました。尊敬する小沢さんの原作のものを、いい雰囲気の中でやらせてもらって、嬉しかった。もう、すべてをエンテツさんに代弁してもらってますね。やりたかったことは、そういうことです。そして、ああいう、浪花節とはイメージ的に懸隔のあるポレポレに、浪花節を持ってきたかった。感謝です。

投稿: たまみほ | 2006/04/08 19:25

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