根拠のないことだらけの食生活と栄養と健康
ま、さらにまた昨日の続きだけど。健康のために一日に30品目たべよう、という話を覚えている人はたくさんいるんじゃないかな。
まったく、ずいぶんうるさかったからなあ。あれは、1985年5月に、当時の厚生省保険医療局健康増進栄養課が発表した「健康づくりのための食生活指針」ってやつで、その前からあった栄養学の一部の主張が、お上のお墨付きをもらったかっこうで、根拠のないまま一挙に市民権を得た。
で、どうなったか。いまじゃ、そんなこという人は「時代遅れ」扱いだ。
その主張をやっていた当事者からも、いや人間の細胞は一週間単位で生まれ変わるのだから、一日に30品目とる必要はなく一週間に30品目でよいのだとか、アレコレ言い訳がつき、アイマイになった。そしてまたこのたび「食育基本法」が施行され、「食事バランスガイド」なるものが発表された。これは厚生労働省と農林水産省の共同作業であるらしいが。
わずか20年のあいだの、こういうドタバタそのものに、根拠のない無責任があらわれている。そもそも「食生活の健康に対する影響はながい期間をかけないとわからない」(鯖田豊之『肉食文化と米食文化』)という主張が一方にあったのに、無視され続けなのだ。
いったい一日に30品目にせよ、それを引っ込めるにせよ、「食生活の健康に対する影響」は、どれぐらいの期間をみて判断すべきなのか、その根拠はあきらかにされていない。
また、たとえば、カロリーと肥満との関係も、「カロリー計算は無意味」という主張があるにもかかわらず、ほとんど無視されている。
ようするに、これらは「科学的」な装いをしているが根拠のない、ある種の観念的な「主義」にすぎない。「だが誤った観念を自己の利益のために広められるのは、一種の社会学的公害である。そして新聞がそういう話題にすぐ飛びつくのも、困った風潮である。ある程度は、実態を確認してから記事にすべきであろう」と、江原恵さんは、自然食主義について、『家庭料理をおいしくしたい』(草思社、1988年)で述べている。厚生労働省と農林水産省とマスコミは、食生活と健康に関する「社会学的公害」の発生源といえる。
こういう風潮に対して、なにが有効か? 一つは「自分の味」を持つことだろうってわけで、おれは「現代日本料理「野菜炒め」考」に「自分の味」について書いた。
根拠のない政策は、「一日に30品目」のように、どうせ破産する。欲の深い連中にふりまわされないようにするには、「自分の味」を持ち、「あたふた流行の言説にふりまわされることなく、ゆうゆうと食文化を楽しみたい」ってこと。
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