安くてマズイ居酒屋礼賛
こういうことを書くと、浜田信郎さんの「居酒屋礼賛」に批判を加え蹴飛ばし撃破するつもりかと思う、白か黒か、上か下か、右か左かといった二択しかない単細胞ニンゲンがいるので断っておくが、そういうことではない。
町も居酒屋も人もいろんな顔をしているのだということをいいたいのであって、東京は、とくにそうである。東京のおもしろさは、そういうゴチャゴチャなのだということを、いいたいだけなのだ。
ま、太田和彦流美学は、それはそれで一つの見識であるだろうけど、それ一つで世界が成り立っているわけじゃないし、それ一つだけで世界が成り立つわけじゃない、じつに複雑怪奇多様な絵柄をしている。中南米やアフリカのように、という言い方は偏見にみちていて適切かどうかわからないが、北半球東西文明的な向上心や洗練とは遠い生き方、あるいはダメさ加減にもっと陽気に沈殿し楽しんでもよいのではないか。みながみな太田和彦流美学で這い上がろうとする必要はないのではないか、ということをいいたいだけなのだ。
ということで、東京の某地域の某居酒屋だ。
ここは、地域の名前をいって、そこで安くてマズイことで有名といえば、おれの知り合いの、おれよりかなり若いくせに、おれより長くフリーライターをやっているし稼いでいる、週刊誌などに東京の高級店から低級店までをカバーする、いわゆる「グルメ」記事を書きまくってきた男にも、すぐ通じるし、おれは、バブルのころ数年間その地域に仕事場があって、よく飲んだのだが、とにかく、その地域で「安くてマズイ」といえば、その某地域を知るたいがいの飲兵衛は、その某店をいい当てるといったアンバイに有名なのだった。
だから、ここまで読んだだけで、その地域と店名を当てられる人がいるはずなのだけど……そういう低級な趣味を持ち合わせている人は、このブログを見ているかどうかは、わからないからな。
ま、それで、しかし、あのバブルのころでも、ちゃんと安くてマズイを通して生き残り、しかも、たしかその地域に大きな店舗を三つ持っていた。おれは、この三つ全部を利用していたが、ほかは知らない。だけど、やはり、この店は、この地域ならではだよなあ、と思わせる安くてマズイ個性があった。
とにかく、ここの日本酒の安さ、そのマズさ、もう何杯でも飲めて悪酔いできるうれしさ。これこそ「国民酒」ではないか。それに、昼間からだらしなく飲めるうれしさ。これこそ「国民酒場」ではないか。そのうちの一軒は、おれが仕事をしていたビルの一室から見下ろせる位置にあって、真昼間から、じつにあやしくもいかがわしく輝いている貧乏なやるせない堕落した情熱なリズムなのよ連中が出入していた。ここはまあ、あのバブルのころは、完全に、バブルの日本ではなかった。それぐらい、バブルのときだって、バブルに関係ない連中がいたってことなのか。
ま、その詳しいことはいいや。とにかく、よくガイドブックや情報誌に載るような、洗練された凛々な居酒屋ではない。そういうところも堂々と生きている東京のおもしろさがあるってこと。
ま、東京のおもしろさといえば、恵比寿あたりにフランス人がレストランをつくると、すぐメディアが寄ってたかって持ち上げ紹介し、そのあげくオーナー店主が商売がうまくいかなくて放火事件を起こしてしまうなんていう、とってもオシャレなトレンディなお店もございますのですが。そういうオシャレでトレンディな店にすりよっていくメディアやお客さまなどは振り向きもしない店もある。
が、しかし、このあいだ、そやつ、そのフリーライターから電話がって、その店がだいぶやる気を出している、ヤバイ、という。あいかわらず安いことは安いが、あのマズさがなくなっているのだという。これはもしかしたら、太田和彦流居酒屋礼賛が、東京の居酒屋を均一化しはじめている兆候ではないか、ヒジョーにヤバイというのだ。
おれは、でも、そうなれば、また別のところに、安くてマズイ居酒屋が生き延びていくから心配しなくていいよ、とか、そのようなことをいって興奮する彼を落ち着かせたのだが。
ああ、それで、ようするに、きのう書いた季節労働編集者と会って打ち合わせするのに、その都内の居酒屋を思い出し、そこで会って、その変わりようを確かめることにした。という、今日のはなし。
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コメント
おっ、はじめまして、このようなところにコメント、ありがとうございます。
はたして、お互いのおもいが一致した店であるかどうか。もし一致していなくても、かくも似た存在がまだまだある東京は、まだまだおもしろい深いということになるし。もし一致していたら、これだけでわかってしまう阿波踊りりゃーさんもスゴイし、あの店もいやはやスゴイということで……はたして。
しかし、こういう店のレポートを書くのは難しいですね、名前を出しにくいし、チト練習しないといけないですね。
投稿: エンテツ | 2006/08/10 00:46
はじめまして。いつも楽しく拝読しております中央線沿線在住の28歳です。
おっしゃっている某店、新装開店後はまだ足を踏み入れていないのですが、外から眺めている限り、客層も心なしかこざっぱりしてきたように感じます。
ウマくなった?まさか!と思う反面、ちょっと不安になりました。ぜひリポートをお願いいたします。
なお、完全に蛇足なうえに他意はありませんが、その新築ビルの建築検査を請け負ったのは、かのイーホームズです。
投稿: 阿波踊りゃー | 2006/08/09 20:30