一箱古本市、新宿古書展、言水制作室
きのう。谷中の「一箱古本市」で一箱売り子店主をやっているハズの「漫画屋」塩山芳明編集長を訪ね、「あんたもついに南陀楼綾繁猿回しのサルになって柄でもないことやっているな」と冷やかし、のち神田駿河台下の古書会館で開催中の「新宿古書展」に顔を出し「古書現世」のセドローくんこと向井透史さんに「どうせおれが買えるような安い古本は売ってないだろう」と悪態をつき、のち神保町の言水制作室へいって言水ヘリオさんとこころ安らかに酒を飲みながら同室で開催中の「加藤陽子「ただひとつ」展」を見よう、というイメージで家を出る。
日暮里駅をおりて、夕焼けだんだん谷中銀座のとおりに入ったころに空模様があやしくなる、まるふじ呉服店の前で汚い箱を前に乞食のようなものたち数人がしゃがんで、そのなかでイチバンくすんで貧乏くさい塩の字、なにやら真剣な顔で本を抱え込んではペンを動かしている、本が売れないものだから値下げ値段の書き込みをしているらしい、おれが近づいても気がつかない真剣そのもの、客の気配を察知し顔をあげ愛想笑いする余裕もなさそうだ、こいつは他のものたちが遊びでやっていることを本気になって一円でも多く儲けたいと思ってやる貧乏性なのだなあ、その姿を見ていたら哀れで考えていた冷やかしをいう気もなくなり、せっかくの日曜日に群馬の山奥から(前日に出て来て会社に泊まりこんで)猿回しのサルをやりにきた塩の字が可愛そうで、哀れ哀れツイ一冊買ってしまう。これが、とんだ災難だった。
ついでに、ほかの箱をみようかと、もらった地図を手に歩いたが、おれのアタマではなく地図の描き方が悪くてカンチガイ反対方向へ歩いているのに気づく、ひきかえしたが雨がポツリあたりだしメンドウなので、そのまま日暮里駅にむかってもどり、夕焼けだんだんのとこの酒屋にはいり言水さんと飲む酒を、種類が多いのでアレコレ迷ったすえ、飲んだことがない知らない「雪の松島」ひやおろし4合瓶を一本買う。
その袋をぶらさげて、御茶ノ水駅から駿河台下へ下るうち腹が減ったので「富士そば」でコロッケ&温泉たまごそばをたべ、外へ出ると雨が少しイヤなかんじに降り出す、古書会館地下の新宿古書展会場、入口の荷物をあずけるところで作業中のセドローくんにごあいさつ、酒瓶をあずけながら「どうせおれが買えるような本はないとおもうけど」セドローくんは「またブログに悪口を書くんでしょう」……と、背中を丸めて作業中の男が振り向き声をかけてきたのは立石の立石書店の牛イチローくんこと岡島一郎さん、あれっ新宿古書展なのにどうして立石の牛イチローくんなのと思いながら、会場に入り棚を見はじめると欲しい本がある、どうせ高いのだろうと思って手にとってみると300円だ、えっそれじゃあと気になる本の値段を見ると、おれは高い本を選ぶクセがついてないのか、みなそれぐらい、なかには200円のものもあった、なーんだ安い本もあるのかと、安くたってカネはとられるのだが得した気になって数冊買ってしまう、荷物をあずけたところで酒瓶を受け取るときセドローくんに「けっこう買っていただいちゃって」といわれる、いやあははは商売人はやはり買いたくなるものを出せるカネの値段ぐらいで置いとくもんだな、そこへいくとあの「一箱古本市」では塩の字にご祝儀をやりすぎたかと思いながら外へ出るとドシャぶりだ。
濡れながら歩き、しょうがないビニール傘を売っているとこを見つけ買う、ほんとうは「書肆アクセス」にもチョイ顔だすつもりだったがやめ、言水制作室へ。
ここの建物は入口から木の階段で、いいかんじだねえ、おれが1960年代前半に短期アルバイトしていた御徒町の裏通りあたりにあった、木造アパートのような事務所と造りがおなじだ、ここに来るたびにあそこを思い出すよ、なにせ各部屋の出入り口は木の引き戸だし、おこんばんワ、先客の女性一名、言水さんに酒を差し出す、言水さんは飲むこと食べることが好きなのだ、さっそく封を開け、茶碗に注ぐ、女性と初対面のごあいさつ、広田美穂さんとおっしゃる美術家のかたで、言水さんもそうだが、おれの故郷(今日は中越地震2周年)のご近所の津南町で開催の「大地の美術展」だったかな?正確な名前を忘れたが、それにも関係しあのへんをご存知なので、話は一気に雪国の話題へ、それからアレコレ茶碗酒を飲みながら、もちろん狭い言水制作室の壁にかけられた加藤陽子さんの絵も鑑賞しつつ、これは以前にも見たことがある作家さんだ、そのあいだに2、3人入ってきて見て帰るひとあり、加藤さん一足お先にお帰り、やがて4合瓶も飲みつくしそれではまた飲み鑑賞にまいります。
そうそう、来月11月10日から12月2日、この言水制作室と、ご近所の「書肆アクセス」と「かげろう文庫」を会場に、利根川友理展があるのだ。作品が本に関係することもあって、言水制作室だけじゃなく、書店も会場にする新しい試みだそうで、なんだかまたおもしろい展開になりそう。
ああ、それで、だからきのうはそれほど遅くならずに酔わずに帰り着き、買った古本をだしてパラパラみたら、なんじゃあ、このオ、塩の字に500円も出して買った根本敬『因果鉄道の旅』、なんだコノヤロウ、ねずみが齧ったあとにションベンだらけだ、ほんとうにもう群馬の水呑百姓が気どった谷中文化人の仲間になって「一箱古本市」なんてのをやるとロクなことしない、しかし、おれも、あの塩の字から買うのだから、もっと注意すべきだったが、なにしろ老眼を細めて値段を書きかえている姿をみたら哀れをもよおしてしまってなあ、しまったことをした、やはりあいつは、どんなことがあっても気を許してはならない、というのが本日の教訓でした。
なんだね、近々ここに詳しく書きたいと思っているのだが、その漫画屋から、このあいだ鬼畜SMコミック「Mate」12月号がおくられてきて、例の南陀楼綾繁さんの「活字本でも読んでみっか?」だが、今回は、めったに「絶賛」という言葉をつかわないおれが絶賛したいぐらいよかった。ま、おれが絶賛するということは、世間のブンガクモノたちには評価されないという関係もあるようだが、おれは気に入ったのだ、まさにこれが南陀楼綾繁を蹴れば出てくる泉の力だね、取りあげている本は嵐山光三郎『昭和出版残侠伝』、この本は買って読む必要はないが、南陀楼ファンは漫画屋に「Mate」12月号を注文しごらんあれ、そんなやつはいねえだろうが。
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コメント
ねずみが齧った歯の跡がシッカリあるのに驚きました。
こういうのを見るのは久しぶりです。
「人生解毒波止場」は知りませんが、
川崎ゆきおさんというと、幻堂本を、
幻堂さんからいただきました。
「猟奇」って、うまいことを考えついたなあ。
川崎ゆきおさんのサイトは、
ときどきみているのですが、
とくに最近は短い小説がおもしろく。
私は、「中毒」しているといえるほどのものはなく、
酒がイチバンそれに近いか、
ま、ボンヤリしているのがよいのですが、
なかなか思うようにならず。
投稿: エンテツ | 2006/10/23 23:43
あらら、ねずみの小水跡とは、笑えました。
私の方、確かエンテツさんの大衆食堂の研究本と
同じ頃に、「人生解毒波止場」なんていう変な題名の
もの買った記憶がありますねえ。関西の川崎ゆきお
という人の「猟奇 夢は夜ひらく」に負けず劣らずで。
エロいのは「乱れ雲」「バルカン・クリーゲ」など
河出文庫ものは買い揃えたことあり、漫画系は少なし、
そんな感じで、まあ文庫本中毒気味で仕方ないですね。
投稿: ボン 大塚 | 2006/10/23 21:35