『季刊 うかたま』で、ボンヤリ「食」と「農」のゆくえを懸念
『季刊 うかたま』という雑誌がある。農文協(社団法人 農山漁村文化協会)が発行する、比較的新しい雑誌だ(手元にあるのが今年の4月1日発行の通巻6号)。「食べることは暮すこと」というキャッチフレーズがついている。
チョイと部分的にだが、気のせいか、ヴィジュアルが『ku:nel(クウネル)』を思わせる。A4変形、130ページで780円だから、おれのような貧乏人は買わないだろう。おれは、高給取りの某一流大企業社員から借りているのだ。
その芯にあるものを問わなければ、編集表現的には、いいつくりの雑誌だと思うし、このあたりが、イマドキの都会派知的小市民の「食べることは暮すこと」憧れ優越意識に合うのだろうとナットクできる。
版元の農文協というのは農水省の外郭団体というのかな、そのPR部門のようなというか、そういうふうにみえる団体だ。この団体の活動ぶりをみると、国民に奉仕すべき農水省と巨大とはいえ一経済産業団体にすぎない農協の癒着ぶりが、じつに鮮明なのだ。
もちろん、おれはむかしから農文協に強いシンパシーを感じてきたし、拙著のためにも、農文協の図書は大いに役に立っている。それに、みなさんトシをとられたので付き合いもなくなったが、かつては仕事も一緒にし、よく楽しく酒を飲んだ、尊敬する先輩方もいる。ほんとうに農山漁村文化のために活躍してほしいと願っている。
ところで、この団体は、こんな理念らしきものを掲げている。……
近代化は、あらゆる場面で生産効率を高め便利な生活をもたらしましたが、自然と人間の関係を敵対的なものに変えてしまいました。
農文協は、農と食・健康・教育を軸心として「いのちの流れ」を呼びおこし、都市と農村の関係を変え、自然と人間の調和した社会を形成することをめざして、総合的活動を展開する文化団体です。
……以上「農文協のご案内」から
ここで、おれが気になるのは、「近代化は、あらゆる場面で生産効率を高め便利な生活をもたらしましたが、自然と人間の関係を敵対的なものに変えてしまいました。」という部分なのだ。この認識は正しいのだろうか。これでいいのだろうか。
そういう認識で「自然と人間の調和した社会を形成する」ことは可能だろうか、そもそも「都市と農村の関係を変え」とは、どういうことなのか、と疑問がわく。こういう理念が、国民に奉仕すべき農水省と巨大とはいえ一経済産業団体にすぎない農協の癒着のなかで機能することに、ある種の懸念がある。
ま、今日は、そのことではない。とにかく、そのような団体の雑誌だから、食育基本法推進に熱心であり、農協や全農の全ページ広告があるのはトウゼンだ。また、それでなければ経営的に成り立たないだろう。その広告が、全体的にシンプルな美しいビジュアルのなかに野暮ったくあって、農文協の自己主張がうかがえるのもほほえましい。
左側は、“カップヌードルで「おめでとう!」”の、これは、広告ではない。いや、最初は広告かと思ったが、本文つまり記事なのだ。「gohan×mukashi」のvolume2であり、広告でいえばボディコピーにあたる文章は、こうだ。“昭和49年(1974)のお誕生会。東京都江戸川区。メインディッシュは3年前に発売されて大ヒットしたカップヌードル。インスタントラーメンが1袋20円ぐらいの時代にデパートで売り出され、1個100円の高額商品だった。食卓にはホールの苺ケーキとプリンとプラッシー。手作り料理一切ナシがこのころの贅沢。”
そして右側に、“三つ子からおとなまで「食育」の手引書”の広告が。『子どもは和食で育てなさい』なんていう本もある。そして最下段は、「食の検定 食農3級」公式テキスト。
いやだからさ、なにを言いたいかというと、このように記事と広告がならぶ現実から、モノゴトを考えなくてはならないのではないか、ということなのだ。「近代化は、あらゆる場面で生産効率を高め便利な生活をもたらしましたが、自然と人間の関係を敵対的なものに変えてしまいました。」という見方で、この現実を正しく認識あるいは理解することができるのだろうか。
ついでにいえば、カップヌードルは近代化を象徴するものだと思うが、その材料には農作物が大量につかわれている。農作物の消費チャンスの拡大に大いに貢献してきたと思われる。もっとも、農文協の理念からすれば、それは「自然と人間の関係を敵対的」に変えるものだろうから、それならばそういう近代化のメーカーには原料となる農作物を売らない、自らの立場を明確にする啓蒙でも運動でもやればよいのだ。それとも、カップヌードルは、そういうものではないのだろうか。だとしたら、「自然と人間の関係を敵対的」の基準は、どのへんにあるのだろうか。
ま、今日は、そのことではない。その広告の「食の検定 食農3級」公式テキストに、“食と農のオーソリティが監修・執筆”と紹介されている面々の名前を、ここに列挙しておきたいのだ。
総合監修 吉田企世子 女子栄養大学名誉教授。
監修(食) 岩間範子 女子栄養大学短期大学部助教授。
監修(農) 高橋久光 東京農業大学教授。
監修(農)夏秋啓子 東京農業大学教授、食と農の博物館館長。
部分監修 津志田藤二郎 (独)農研機構 食品総合研究所 食品機能研究領域長。
服部幸應 (学)服部栄養学園 服部栄養専門学校 理事長 校長。
コラム執筆 吉田企世子。中村靖彦 東京農業大学客員教授、農政ジャーナリスト。津志田藤二郎。村田吉弘 料亭菊乃井主人。
以上。
しかし、食育を推進するひとの大部分は善意だと思うが、一方では2006/09/08「「食育利権集団ができつつあるようだ」とな」に書いたような利権集団がはびこっているのも確かのようだ。「食育」に便乗の資格商法などは、もはや役に立たないものを売りつける悪徳商法なみだ。
これが「利権」ぐらいならまだしも、いやそれだってよくないにきまっているが、さらに、「法」をたてに、権力と権威をふりかざし、ある種の自分たちに都合のよい傾向だけを受け入れ推進し、ある種の傾向は排除していくような「翼賛運動」になる懸念が強まっているような気がしてならない。それは、食文化のためにも農山漁村文化のためにもならないだろう。
雑誌の『季刊 うかたま』は、そういう懸念に関係なく、なかなか意欲的なよい雑誌だと思うが。そうそう、この号には、当ブログ左サイドバーのアステアエンテツ犬のイラストを描いた内澤旬子さんの売れている近著『世界屠畜紀行』が紹介されている。それから、小鹿野町のシイタケづくりに誠実に取り組んでいる田嶋敏男さんの仕事ぶりがタップリ紹介されている。
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コメント
yanchamono様
はじめまして。知りませんでした。近年まれなる朗報、ありがとうございます。
たぬきさんは、ご家族がたくさんだったし、近所にもいらしたから、どなたか継いでやることになったのでしょうかね。
とにかく、行ってみねば。
投稿: エンテツ | 2007/06/11 16:21
わたくし、初めてコメントさせて頂きます、yanchamonoと申します。
エンテツさんはすでにご存知かもしれませんが、駒込の「たぬき食堂」が本日6/11_PM5:00から再開するそうです。
日曜日に散歩していて「たぬき食堂」の前を通りかかったら、張り紙がしてあったので、確かな情報だと思われます。
息子さん?娘さん?が再開させたのでしょうか?
以上、情報まででした。
投稿: yanchamono | 2007/06/11 15:26