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2008/06/04

貧乏力の続き、そして旅人文化とやどや。水族館劇場、最終週。

Sinryokuきのうの「貧乏力」、宮沢章夫さんからの引用は、おれが都合のよいところを都合のよいように引用している。まだ、あるのだ。正確には、きのう引用したところは、「貧乏力」という短いエッセイのおわりのほうで、その前がある。

宮沢さんは「劇作家」「演出家」でもあるから、演劇をやる若い人たちとの付き合いがある。「演劇をやる若い者の大半がそうであるように、彼らはひどく貧乏だ」と書いている。その彼らをみて「こうして考えてみると、「貧乏力」とはつまり、「気にならない力」のことではないだろうか」と考える。そのあとを紹介しよう。……………………

 おそらく、彼らは、そのこと自体、気にしていないので、自分が「貧乏」などとは考えたこともない。ただ単に、「いま、金がない」だけのことだ。そして、「気にならない力」は、様々なことを無視し、見落とし、忘れるがゆえに、「力」となる。考えてもみたまえ。「無視することのできない人」がどれだけ苦労が多いか。「見落とすことのできない人」が、いかにつまらないものを数多く見てしまうか。「忘れられない人」は、いつまでもそのことを気にして不幸である。
 「気にならない力=貧乏力」はすごい。なにしろ、なにも気にしないのだ。

………といったぐあいに、宮沢さんのお得意芸にみえる、諧謔的な話の転がしが、まだ続く。「道に落ちたものを平気で食べる」「他人が使ったティッシュが乾けば、再利用する」「ものを大事にするのである」「使えるものは使う。なにも気にすることはない」

いまなら、このあたりで、最近「洞爺サミット」の提灯持ちで来日したらしい、「もったいない」のノーベル賞受賞者や「船場吉兆」を思い浮かべる。あれも「貧乏力」か? と。

しかし、宮沢さんの話は一転する。「もちろん「貧しさ」といっても「昭和三十年代的な」と呼ばれる、あのノスタルジーで語られるものとは、ここにあるのはどうも異なるように思えてならない」と書き、きのう引用したような、「八〇年代的な嘘をひきはがす」「気にならない力=貧乏力」に結ぶ。

「「昭和三十年代的な」と呼ばれる、あのノスタルジーで語られる」古き良き「貧乏」などは、「八〇年代的な嘘」のタワゴトの延長にすぎない。記憶の商品化と消費。三丁目の夕日あたりで、カネと時間を感涙に変えてオワリ。そんなことは貧乏力がなくてもできる。いまどきの「昭和三十年代的な」貧乏話や闇市の話などは、たいがいそういうもので、そこには安直で横着な消費的流行はあっても、「貧乏力」などない。

では、こういう「八〇年代的な嘘をひきはがす」「気にならない力=貧乏力」は、どこにあるか。これが、今日のメインなのだ。

たとえば、左サイドバーのリンク「旅人文化ブログなんでも版」や「YADOYA Guesthouse」(そのトップページのメニューにある「YADOYA Blog」をごらんいただくとよいかも知れない)にあるといいたい。

というのも、「旅人文化ブログなんでも版」は、この6月で2周年だそうだ。冗談本気で始めた「旅人文化振興会」と「やどや」は、今月末から来月早々に、念願の新しい展開を始める。貧乏人が貧乏人のための食堂を始めるように始まったそれは、消費主義的旅行、つまり旅行はカネを出して旅行社から買うもの、高いカネを出すほどリッチな良い旅ができるという「八〇年代的な嘘をひきはがす」事業ともいえる。

「気にならない力=貧乏力」とは、とりわけ八〇年代以後の消費社会がもたらした消費的環境や条件が気にならないのであって、じつに、気になることはたくさんあるし、無視できないこと、見落とすことができないこともたくさんある。それと日々むかいあっている、30歳そこそこの「やどやの女将」は大変である。そもそも、相手は日本人ではない。高いカネを頂戴して、おなじサービスを提供するシステムでもない。しかも経営的には、日本の環境は、こういう貧乏所帯のベンチャーには、まったく不向きだ。

その苦労話とも笑い話ともつかないものは、どっさりあるが、やはり「気にならない力」も必要であるかもしれない。とにかく、コミュニケーションでも、粘り強い。そうか「粘り強さ」といえば、やはり貧乏力か。気にしながらも、「気にしない力」「気にならない力」もつけてバランスをとっていくことなのかもしれない。なのに「気にする力」をつけるようなことばかり喧伝される。気にするな、力強くめしを食おう。

ここで、きょうのところは、トツゼンおわる。

きのう、貧乏力ということで、注目の料理がある「平民新聞」さんを紹介したが、もうひとつある。どちらにも、「貧乏力」なんていう紹介は失礼かもしれないが。ま、気にならない力で、笑って、ご勘弁を。

神田森莉さんの「ハムブログ」…クリック地獄

ところで、「ひどく貧乏」な人たちが、なぜこうも演劇に惹かれ続けるのか。

2008/05/24
「水族館劇場、白骨島スペクタクルに驚愕。」
に紹介した芝居は、今日から日曜日まで5夜連続の最終週になる。おれは、もう一度観るつもりだ、あのパンキッシュな崩壊を。みなさんも、ぜひ、ご覧ください。
前売りは会場から近い「古書ほうろう」でも扱っています…クリック地獄

画像は、ふろく。川の名前、忘れた。四万ダムの少し手前。春の風は冷たくすぎ、新緑の季節は消え、梅雨が……。

芝居でいえば舞台から俳優の姿がトツゼンみえなくなった状態、映画ならば「終り」の文字が出ないでストップモーションのままという状態は、やはり気にはなるが。ま。

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