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2008/11/11

「ゆるゆる大陸」「脱星印脱印籠語」とか。

テレビがないから見たことはないのだが、「情熱大陸」という人気番組があるらしい。左サイドバーにあるイラスト「アステア・エンテツ犬」を描いた内澤旬子さんも出演し、一気に有名になったようだ。

その番組の内容はしらないのだけど、俺は、あまり情熱ほとばしる、コレに情熱を燃やしているんだぜ、てな感じのものは、どうも性に合わない。それは、なんとなく「こだわり」や「私はうまいもの好きよ」「俺は酒好きだぜ」とかにも通じるところがあって、かっこ悪い。

「情熱」は、うっとうしい。「情熱」は身体の芯のあたりに包み込んでおくものだ。と、先夜、須田泰成さんや石黒謙吾さんと会って、あらためておもった。須田さんのコメディに対する情熱、石黒さんの駄洒落に対する情熱は、かなりの高温だとおもうが、それをけっしてあらわにしない。なんとなく「ゆる~い」感じが、それを包み込んでいる。

ま、とにかく「情熱大陸」ってのがあるなら、「ゆるゆる大陸」ってのがあってもよいじゃないかとおもったわけだ。世間では「ゆるキャラ」なんてのがもてはやされているようだが、もしかするとあらわな「情熱」はシンドイという気分が一方にはあるのかもしれない。とにかく、さしあたり、俺が「ゆるゆる大陸」という番組をつくるとなったら、まずは須田さんと石黒さんに出演をお願いするだろうとおもった。

話は少しずれる。きのうのエントリーにリンクがある須田さんの「スロコメ日記」だが、11月7日のタイトルは「衝撃のセゾン・デュポン」。そこで、須田さんは、こう書く。


ベルギービールは生きている。
そのことをズシーンと思い知らせてくれるのが、
この セゾン・デュポン。

注いでみると、まず、泡の力強さにビックリ。
じわっと、ふくらみのある泡が、むくむくと立ち上がります。
飲んでみると、
ホップの爽やかさに一日の疲れを癒され、
次に、その奥に感じられるコクに魅了され、
さらに、鼻孔の奥に充満する乳酸のような香りを感じながら、
「人生って、案外いいもんだ・・・」と、思わずにはいられない。


なんて豊かな表現だろう。須田さんは、「絶品」「逸品」「名品」「至高」「究極」「こだわり」……といった言葉(俺はこれからそれを「印籠語」と呼びたいのだが)をつかってない。そして、セゾン・デュポンの素晴らしさを伝えていて、飲んでみたくなる。また、読んだひとの想像力を掘り起こしてくれる。

印籠語は、「この逸品、この名店が目に入らぬか」と印籠をかざす感じである。その背後には、星印何個のランキングがある感じでもある。ニンゲンが何人か集まると、誰がイチバン頭がよいかとか、エライかとか、優劣をつけたがる頭がある感じである。仮に、星印ランキングはよいとしても、星印ランキングするやつの頭がモンダイだ。たいがい、その頭は「観念」で成り立っている。なので、そこになにがどのようにあるか、なぜそれがそこにあるのか、といったことについて頭を働かせることなく、ある「印籠語」の観念で仕切られてしまう。そこからは、この須田さんのような豊かな文章は生まれないだろう。それはたま、「食」に対する態度のモンダイでもある。

ワレワレは、ニンゲンの実在を、体重で星印ランキングするようなまちがいをおかしやすい。実際、学校教育過程では、そのように育てられている。ニンゲンの価値や文化は体重で決められるようなものではない、ということは誰しもわかっていることなのに、とくに「食」については、それ似たアヤマチをおかしやすい。

おとといのスロコメで、たしか石黒由紀子さんにだったとおもうが、『雲のうえ』5号の食堂の掲載店はどうやって選んだのか聞かれた。たしか「説明がむずかしい」とこたえたら「企業秘密ですか」と聞かれ「いや、そうじゃなくて」と、そのリンカクだけでも説明しようとしたが、酔っていることもあって、うまく説明できなかったとおもう。

簡単にいってしまえば、俺は、星印ランキングではなく、KJ法的グルーピングをやって選んでいる。そのとき、トウゼン、『雲のうえ』の性格や、特集のねらい、それから発行部数などが考慮されているのは、いうまでもない。ま、そのことは、追々くわしくしていくことにしよう。

とにかく、食べ物や飲食店に対する新鮮な感性や想像力を腐らせるものとして、「星印ランキング」や「印籠語」や、うまいものに対するあらわな「情熱」などがありやしないかとおもう。

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コメント

きのう、東京のまちを歩いていたら、立ち食い蕎麦屋のポスターに「厳選」した材料でどうのこうのとあった。いまや、どこでも「厳選」していて、「厳選」してないほうが珍しく「貴重」なぐらい。

投稿: エンテツ | 2008/11/12 12:11

「絶品」「逸品」「名品」「至高」「究極」「こだわり」……
情けない話ですが、予算の都合上デザインをしながら愚にもつかぬコピーを書くこともありますが、どーでもいーやー、ってやっつけ
る場合、上記の言葉をつかって逃げます。陳腐な言葉、ですよね。
本当に大切、そう思った対象には絶対に使わない言葉、それが「絶品」「逸品」「名品」「至高」「究極」「こだわり」……

投稿: おけい | 2008/11/11 18:33

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