安直で惰性な「こだわり」の舞台あるいは舞台裏。
2008/11/05「知識はあれど想像力は、ナシ。」の関連。
知人が俺に、コレを読んで欲しくてと渡した「ベルク通信」、当ブログでも何度か書いた、あの新宿駅でJR大家に追い出しをくらっているベルクの通信、その記事は「こだわりブルース」のタイトル。ベルクの例の本の店長さんが書いている。
一部を略しながら紹介すると、こんなぐあい。……
ベルク本への反応の一つとして、「こだわり」という言葉がますます氾濫したことがあげられます。これまで以上に店の形容語句になり、おホメの言葉になり、挨拶にすらなった。…… それがこそばゆいんですね。「こだわり」って本来あまりいい意味ではない。…… 度を越してとらわれるのがこだわるということ。…… いいこととは言い難い。少なくとも自慢するようなことじゃないでしょう。食への「こだわり」だってそうです。要はおいしけりゃいい。お客様のお口に合えばラッキーなんです。その時はじめて苦労(こだわり)も報われる。でもその苦労をお見せしないのがプロ、というか粋ってもんじゃないですか!
……と書く店長さんだが。……
ところで本って、自費出版でない限り著者のものでなく、執筆も編集部と著者の共同作業になります。私は著者として初心者でありながら優秀な編集者に恵まれ、彼の敷いたレールにのっかって何とか書き上げることができましたが、彼は食への「こだわり」の当事者ではないだけに(うちのお客様ではありますが)何の照れもない。「こだわり」は素晴らしいことだという前提でレールを敷いてくれたりするのです。すると、私にはそのレール自体をひっくり返す勇気はありませんので、その前提に辛うじて抵抗するような書き方をする訳です。「なるべくこだわりたくはないのだが」といった風に。
……チト編集者に気をつかいながら書いている感じだが、つまりは、よくあること。出版社の編集者が「こだわり」路線を敷いている。
ついでに。誰かさんに聞いた話だけどね。なるべく物事を正確に書くために、「名店」だの「逸品」だの「究極」だのといった、中身がアイマイな形容語句を使わないようにして飲食店や食べ物のことなど書こうものなら、たちまち編集者に「名店」だの「逸品」だのに直されることは、よくある。よくあるから、ちゃんと、そのへんの「編集意図」をあらかじめ「理解」して、「聖地」だの「至玉」だの「絶品」だの「厳選」だのという言葉をキラキラちりばめながら書くライターが、「よい文章を書く頭のよいライター」として重宝される。とか。
もちろん、これは、編集者やライターだけのモンダイではなく、そういう中身がアイマイなハッタリのような紋切り型表現をよろこぶ、粋でもなんでもない読者が、少なからずいるのであり、ウリを考えた「よい本」は、それを意識している。ということの反映、なのかも知れない。でも、安直な惰性であることには、ちがいない。ような気がする。
とにかく店長さんは続ける。……
それがあの本を多少まどろっこしくしていますが、ある意味それは編集者と私とのバトルの跡であって、読みようによってはスリリングかも知れないし、当事者の感覚だけで閉じられていないところでもあるのです。著者としては必ずしもスッキリしてないのですが、一読の価値ある本になったと思います。
……ま、そういうわけで、売れればヨシというのは、なんの商売でも仕方のないことなのだ。
ただし、「少なくとも自慢するようなことじゃないでしょう」「苦労をお見せしないのがプロ、というか粋ってもんじゃないですか!」という精神が失われ、これみよがしに「こだわり」を使い、自ら「こだわり」を自慢したりウリにする傾向が大勢となると、その背後にある、想像力の貧困を考えざるをえない。と思うのだな。
画像。たったこれだけの量の文章なのに、2か所も「こだわり」を使っている。「こだわり」なんてのは、大量生産のセブンイレブンの食パンの言葉ですよ。ま、セブンイレブンの食パンだから悪いということはないのだけど、安直簡単便利生活の象徴のごとく揶揄されるセブンイレンブンの、大量生産の言葉ってことです。たしかに、そのように、安直簡単便利に、大量の出版物に使われている。その状況に対して、無自覚すぎるように思う。そこからどう脱却するかという課題があるんじゃあんまいか。
とにかく、俺は、そういう中身がアイマイで大げさな形容語句のたぐいは、なるべく使いたくない。たいがい恥知らずの俺だが、そういう言葉を使うことは恥ずかしいと思うていどの恥は知っている。そして、そういう言葉を無造作に使う人は、オリコウとは思えない。
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コメント
きっと、テキトウに無責任なことを言いながら生きることに、こだわっているのだろう。
投稿: エンテツ | 2008/11/15 20:20
「こだわり」の店を持ち上げながらも、一方では「常識にとらわれない」「これまでの概念を覆す」と形式に「こだわらない」ことを売りにしてる新作料理店を持て囃す風潮があったりして、なんだか訳が分かりませんな。
投稿: 吸う | 2008/11/15 17:19