カントリー・ロード、苦労しながら佳境へ、出られるか?
400字40数枚ばかりの原稿量は、多いのか少ないのか。これでうまくいくとおもって書き始めた構成が、うまくいかず、ゆきつもどりつ。時間が過ぎていくが、気持は、さっぱりあせらない。まったく根拠はないのに、うまく書き上げられるという自信だけはあるのだから不思議だ。
なので、チョイとこれやってくんないかな、なんていう割り込み電話があっても、ああいいよと、そちらを片づけてしまう。ほんとうに、これで、なんとかなるのだろうかと自問してみるが、おれのなかのおれが、大丈夫と自信満々である。
じつは、最初に取材した、大蔵村の取材録音が、いまどきのしかし旧型のデジタル・レコーダーを使用したのだが、それを持って、つぎの美瑛町へ行って、さて使おうとしたら大蔵村のファイルが、そっくり消えていたというジケンがあった。旧型なので、パソコンに落とせないから、バックアップがない。
なぜそんなことになったか、おもいあたることがない。空港の持ち物検査で、そんな事故が起きるとも、考えにくい。だけど、とにかく、消えているのだ。頭のなかが、一瞬、真っ白になった。だけど、もともとカラの頭だから、白くはならず、カラのままなのだ。さいわいなことに、どうしたわけか、いつもあまりメモをとらないおれが、大蔵村のときだけは、録音しながら、かなり克明なメモをとっていた。原稿を書くには、さしつかえない、あわてふためくことはないとおもった。
しかし、美瑛町から帰るとき、旭川空港から乗るわけだが、どうもやはり、あの持ち物検査が気になる。原因がわからないだけに、考えると不安がつのる。バッグのなかから、レコーダーだけ取り出して、財布やキーなんかとトレーにいれた。検査を通過して、すぐレコーダーを動かしてみた。問題なかった。最後の大鹿村は、重いアナログのカセットテープ・レコーダーを持っていった。おれは、ばかにされるアナログ人間だから、これがいいのかも知れない。
ま、そういうこともあった。収録され無事に残っている、美瑛町と大鹿村の取材の、合計6時間近くのテープを聴く。美瑛町長のインタビューは、圧倒的に、すばらしい内容だ。インタビュアのおれが、すばらしい、のではない。町長の考えが、しっかりしているのだ。チョイと、こういう話は、なかなかない。いい取材ができた。たくさんのひとに聴いてほしいぐらいだ。
はて、この内容を、どれぐらい原稿に生かせるか。とか考えながら、写真なども見て、いろいろ確認したりする。ああ、また行きてえなあとおもいながら、写真をながめている。そんなことしていると、どんどん時間が過ぎちゃう。「やばくね」とおれのなかのおれがいう。「大丈夫、だいじょうぶ」とおれのなかのおれがいう。おれは後者のおれを支持する。
美瑛町で、クルマを走らせていた。なんとなく「カントリー・ロード」が鼻歌になりそうな風景だった。麦畑でコンバインが動きまわり収穫作業をしていた。すごい迫力だった。コンバインも、大型で、かっこいい。取材中に見た、いちばんカッコイイやつだ。たぶん新しい型だろう。クルマをとめて、秋山カメラマンが撮影を始めた。
と、クルマをとめたむこうから、大きなトラックが、こちらの車線を走ってきた。われわれの停めたクルマに向かって、猛然と走ってくる。なんだ、なんだ、なぜ左車線を走らないのだ、どういうことなんだ。
おれがボーゼンとしていると、とめたクルマの手前で荒っぽくカーブを切って、ボーゼンとしているおれの横で、ブレーキをかけた。高い運転台から、作業帽のおやじさんが顔を出した。夢中でコンバインを追いかけている秋山カメラマンのほうをアゴでしゃくりながらいった。「おい、にいちゃん、いいカメラで撮っているんだから、せっかくだ、あの運転台に乗らせてもらいな。2階にあがったみたいだよ。迫力あるよ」
おれが、「はあ?」ってな感じのうちに、おやじさんはトラックを勢いよく発進させた。50メートルほど先で、畑の中の道に突っ込んでとまった。おやじさんは、コンバインに近づき、とめさせ、秋山カメラマンを乗り込ませて、去った。
秋山カメラマンからきいた話によると、運転席のおにいさんは、27歳だったかな? 髭ズラでいい顔している。冷房がきいている運転席で、ヒップホップをガンガンに鳴らしている。あのおやじさんは、このあたりで農業を共同経営している「顔役」なんだそうだ。おにいさんは、おやじさんの従業員ってことらしい。
おやじのふるまいといい、景色もひともコンバインも、みんな、すごくカッコイイのだった。いやあ、なかなか、めったにないことだ。こういうことがあると、一層また美瑛町がよくおもえちゃうのだな。
それが、この一連の画像ってわけだ。それにしても、コンバインの大きさ、画像でわかるかな。とうぜんのことだが、農業も、農業するひとも、いろいろ変化している。
この麦畑は、形状と周囲のようすから、もとは水田だったにちがいない。減反による転作だろう。
と、書いている最中に、ピンポーンが鳴って、秋山カメラマンから、CDに焼いた写真が届いた。千五百数十枚あるらしい。「見るのも大変だと思いますが、軽くしてありますので、それほどストレスなく表示できると思います」「執筆大変かと思いますが、陰ながら応援しております」と調子のいいことも書いてある。ありがとう。
はてさて、写真のセレクトだけでも、大変だ。原稿、予定通り書けるのか?大丈夫、だいじょうぶ。
それでは、オリビアの「カントリー・ロード」です。
http://www.youtube.com/watch?v=zSSYgpH58dg
実際のところ、もっとあせらなくてはならないのだが。おれのなかのおれが、あせってくれない。
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