長野県高遠「本の家」とブックフェスティバル。
高野麻結子さんという、おもしろい編集者がいる。そのおもしろさを書けといわれたら、いま書いている原稿量を、かなり上まわることになる。なみのおもしろさではない。2002年8月発行の『東京定食屋ブック』(散達ブックス)の担当者であり、その後いくつか仕事をいただいたが、いまは別の出版社にいる。当ブログには、そのままの名前や略称あるいはテキトウな名前で何度か登場し、今年の1月には、猿を食べに誘われた。おれを使った編集者だから、まちがいなく優秀である。
それはともかく、彼女と北尾トロさんの編著による『新世紀書店』(ポット出版)がある。「新世紀書店」というのは、「「本屋はもっと楽しく、わくわくする場所であっていいんじゃないか」という素朴な会話をきっかけとして、渋谷パルコのロゴスギャラリーで行われた本屋さんをテーマにしたイベント」だ。つまり、そこで、数週間、自分たちがつくりたい本屋の仮店舗営業をしたのだ。2004年11月のことだった。その本を読むと、そのイベントの背景には、北尾トロさんたちが訪ねた、ヨーロッパの「本の町」があることがわかる。
『新世紀書店』の出版は、06年4月のことで、高野さんから贈呈いただいた。そして、たぶんその本に書かれたおもいをこめてだろう、いまは伊那市に合併した、長野県高遠町に「本の家」ができた。
本好きでもないおれが、一度は訪ねてみたいとおもったのは、高遠というところへ、2回ほど行っているが、けっこう好きだったことがある。それから、このことは前に書いたような気がするが、こころざしがあって、未来へ向かって何か起こすなら、人が集まりやすい大都会ではなく、田舎の可能性に賭けるべきだという考えがあるからだ。
それは、ま、自分の体験でもあるが。かりに失敗しても、田舎の可能性に賭けたほうがよい。得がたいものが残り、短期にみれば失敗でも、長期にみれば、そうともいいがたく、長い人間関係やコミュニティにとっては貴重であることが少なくない。長い歴史のなかでは、いっときの騒ぎより、そういう積み重ねが大切だとおもう。
そんなこともあって、高遠への出店は、さすがだなあとおもっていたし、興味津々だった。
前置きが長くなった。2009/08/07「「日本で最も美しい村」連合、長野県大鹿村。下諏訪すみれ洋裁店経由。」に書いたように、大鹿村の取材の帰り、そのまま国道を北上し高遠へ行った。店の正確な名前も住所も知らないが、行けばなんとかなるだろう。
高遠は、以前の印象と、かなりちがっていた。2回行ったのは、80年代のことだから、変わるのは仕方ないにしても、チト方向がまちがっていやしないかという印象だった。なぜ伊那市と合併したのだろうとも、おもった。
秋山カメラマンは、高遠は初めてだった。おれの記憶にしたがって、テキトウに行くと、観光案内所があった。クルマを駐車場にとめ、カウンターのおばさんに、「本の町のようなことをやっている店」ときいた。おばさんは、真っ直ぐ前を指差し、「あそこが、その主宰者の方の店です」といった。道路の反対側に、その店は、あった。おもっていたより、小さく、どちらかといえば小粒な古本屋というかんじだった。だけど、ほーらね、オリコウでセンスがよい知的な本好きが集まるところですよ、という感じではなく、「ただの店」という日常感がただよい、ようするに八百屋や魚屋と変らない本屋なのであるという感じの佇まいがよいなとおもった。
なかは、おもったより奥行きがあり、しかも実際のスペースより、広くゆったりした雰囲気につくられていた。喫茶店でもあり、古本屋さんでもありといった造りだ。見た目は、外観のように、とくべつ本屋を気どったところはない。まっこと、本好きではないおれにとっても、居心地がよいのだ。
入る前に、一冊も買わないにしようとおもっていたのに、つい二冊も買ってしまった。秋山さんなどは、買いたい本を、テーブルのうえに何冊も積み、うーむと考えては、またもどしてみたり、かなり悩んだ末に、しぼって何冊か買っていた。そして、近くの温泉銭湯を教えてもらい、気分よく「ありがとう、さようなら」したのだった。
たぶんこの店には、本好きを魅了する何かと、本好き以外でも好きになれる店としての本屋の要素があるにちがいないとおもったが、それが何かまではわかる時間はなかった。とにかく、とかく東京の本好きや本屋やブックカフェなどに感じる、おもわず引いてしまいたくなる、下世話な人間が近寄りがたい、「独特の雰囲気」「敷居の高さ」は感じられなかった。まちがいなく「まちの本屋」なのだ。なんとなく、北尾トロさんらが考えていることが、体験として感じられた。
帰って来て、サイトを見たら、店に入って、すぐ左側に、たくさんの雑貨がならんでいて、よく見なかったのだが、どうやら「わめぞ」の旅猫さんの出展だったようだ。
さて、それで、長くなったが、ここからが大事なこと。
8月29日(土)・30日(日)、「第一回高遠ブックフェスティバル」ってのが開催される。ぜひ、ぜひ、応援したい。ので、ここに書いているのだな。内容が、ちょいイマイチだなという気がしないでもないが、ま、一回目だ、いいではないか。可能性に賭けよう。
いじょ。
高遠ブックフェスティバル
http://takatobookfestival.org/
| 固定リンク | 0
この記事へのコメントは終了しました。
コメント