性欲と味覚の勝負。
『四月と十月』に連載の「理解フノー」第4回の校正が出て、おえた。これは、本来は4月発行の22号なのだが、6月中には発行になるだろう。
今回は、「健康と酒と妄想と。」のタイトルで、2010/05/15「もっと飲ませろ!」に紹介した、6月1日発売の『ミーツ・リージョナル』7月号に寄稿の酒エッセイ、「もっと飲ませろ!」と内容が重なるところがある。
つまり、「日本だけは、禁酒禁煙のない国にしよう」「「寛容と包摂の先進国」をビジョンにすべきだろう」と、主張している。のだが、『四月と十月』は美術系同人誌なので、チョイとアートがらみに書いているし、禁酒禁煙の動きをバッサリ鋭く切っている。
ま、どちらも、おれの妄想であると「自虐的」になりながら、「健康幻想」にメスを入れたいと試みているが、巧みな文章力がないため、好き勝手言いたい放題アリャサッサなのだ。愛煙家、飲兵衛のみなさんは、いささか溜飲を下げることはできるだろう。
しかし、おれは、もっと決定的に「健康幻想」を破壊したいという過激な願望を持っている。ところが、いまや「健康幻想」はファシズム顔負けの力を握っていて、なかなか難しい。戦時下で戦争反対を唱える難しさを痛感する。
禁欲なんざ、坊主にまかせておけばよいが、歴史的に禁欲を説く者は、たいがい富めるものたちで、坊主にしたって、富める坊主は、禁欲を説きながら富を集め、血色よくやりたい放題だった。なにしろ、大勢の民が欲望のままに嗜好品に手を出しゼイタクをしたのでは、限りある資源を手中に集中することができないのだ。おれは、信心深く、大きな寺にお参りするたびに、そこの坊主たちの体格と血色のよさを、疑問に思っていたのだが。カラクリは単純なのである。
そういう構図は、いつの時代にもあった。しだいに、やり方がオリコウになってきた。禁欲を説かないでも、健康を説けば民は自ら禁欲すると気がついたのは、さすが長いあいだ地球をまたにかけ収奪のかぎりをつくしてきた白人どもの頭脳である。WHOは、貧困と貧困からくる病気をなくすより、健康を旗印にした禁酒禁煙に熱心のようにみえるのは、なぜか。と考えてみれば、少しは見当がつくというものだ。
ほんと、貧乏人は、人生の楽しみである嗜好品すら、ままならない。いやさ、たばこや酒だけでなく、貧乏人は、性生活も、ままならず苦労が多いのではないか。
きのうのことだ。近所のドラッグストアへ、米と酒を買いに行った。何気なく、その売場の通路を見ると、やせた貧乏くさい若い男が、棚から何かを手にとって、難しそうな顔をしている。その棚に「スキン」と「妊娠検査薬」の表示があることに気がついたおれは、大いに興味を持ち、かれが何を手にしているか気になった。
用もないのに、その通路に入った。ゆっくり近づき、かれの背後を通り、棚とかれの手元を確かめる。かれは、おれのことなど、まったく気にならない様子だった。そしてかれが手にしているのは、妊娠検査薬であることを確認した。
この店で下から2番めぐらいに安い、5キロ1700円ぐらいの米と、箱入り焼酎の黒霧島を買い、レジのところへ行くと、そのかれがおれの前にいた。かれは、妊娠検査薬を、レジ係りに差し出した。それは知らないひとは見てもすぐにはわからないだろうが、おれは見たばかりだからわかるのである。
食べるものもちゃんと食べてないような痩せた、しかも小柄な身体。それだって、若ければ、セックスはできるのだなあ。いまのおれは、けっこうちゃんと食べて、かれより大きい身体をしているのにできないのは、どういうわけだ…。と、やや腹立たしくおもいながら、ややうつむき加減に、さえない顔で自転車に乗って去っていくかれを見送ったのだった。
かれがいまから帰るところには、きっと若い女がいて、かれの帰りを待っているのだ。そう、かれは、かのじょもか、ガマンできずにナマでやってしまったのだ。クソッ、このおれをどうしてくれるのだと、おれはもだえ、妄想をたくましくして、スキンも妊娠検査薬も、まるで関係なくなった、わが身の衰退をあわれみながら帰る道は、片手にさげた米の袋は重く、しかし、もう一方の手にさげた酒が、より愛おしく、おれにはまだ酒がある、おんなに相手にされなくなっても酒があるのだ、そういえば、あのおんなからも連絡がなくなったな、やっぱりそうか、わああああああ~、でも、酒があるぞ~、ナマなら生ビールがあるぞ~、泥酔があるぞ~、と、初夏の空に向かって叫んだ…ら、ほんとのバカですね。
禁酒運動なんかやってみろ、自殺する老人が確実に増えるにちがいない。そもそも、年間の自殺者が3万人をこえる事態が改善されないのも、嫌煙運動の激しさや禁煙地帯の増加と関係あるかもしれないではないか。
ああ、これでは、「味覚の勝負」の話が、つながらずに残ってしまいそうだ。
先日紹介した、「「円盤カレー道場第3期一回戦第9戦」挑戦者:安岐理加VSいまおかしんじ」は、7対17で、安岐さんは敗退だったそうだ。
野暮連の1人が現場に行っていて、ということは食べて、投票もしたわけだが、かれから届いたその報告のメールが、なかなかおもしろいから、一部をここに紹介する。かれは、これまで今期9試合全てに行っているとかで、こう書いてきた。……
やはりいまおかさんは去年出場して結構勝ち抜いているだけあって、非常に解りやすい「勝ち」にいくカレーでした。
というか、食べ始めて大体どちらのカレーかは解りました。
対して安岐さんのカレーは、かなり独創的なカレーでした。
オリジナリティとかオリンピックみたいに芸術点を求めるなら、ああいった料理もありかもしれませんが、高円寺の腹を空かせたヤングな方達には残念ながら今いち訴求効果に欠けるカレーでありました。
……引用おわり。
この「円盤カレー道場」は、プロアマ区別なしに2人で対決し、その場にいる人たちが食べ投票し勝ち負けが決まり、トーナメント制で勝ち残ったものがグランプリに輝き賞金10万円、というやり方なのだ。
この野暮男は、おれを「師匠」だの「教祖」だのと仰ぐだけあって、なかなかおもしろい観察をしている。
「高円寺の腹を空かせたヤング」と、余裕のある中年ぽい口ぶりだが、こいつは、妊娠検査薬を買ったことがあるのだろうか。そのヤングは、また腹を空かせたままナマでやり、妊娠検査薬を買いにいくやつらかも知れないということには、この野暮男は、まだ気がついていないにちがいない。
と、最後は、無理矢理つなげて、おしまい。
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コメント
art-isamuさん、ハンドルネームもIPアドレスも変っていて、前のコメントがわからないのですが、なんとなく文章の感じに記憶があります。
それはとにかく、愉快、痛快な話ですね。たしか、たくさん肉を食べると長生きできないといった話もありますが、80過ぎて肉が好きで、肉がんがん食べて生きているひともいますしね。人間の生命の不思議なんてものは、まだほんのわずかしかわかっていないのだし。
って、じつは、酔っていて、あまりキチンと書けていない感じがするのですが、どうすれば長生きできるかなんて、予測できることじゃないと思うんですよ。とにかく、お互い大らかに生きるのがイチバンだと思うのです。その結果、長生きしようが、いつ死のうが、よいのではないかと。
私のばあい、45歳ぐらいのときに、急性肝炎で1か月入院したのですが、なんだかタバコは、そのまま吸いたくもならずやめてしまいましたが、酒は、退院してそのままビアホールに直行しました。あのときのビールのうまさは、また入院してもよいから、味わいと思うほど、うまかったです。それなら、1か月禁酒して飲めばよいじゃないかといわれるけど、それができない。
とりとめなくて、すみません。
ブログ拝見させてもらいます。
投稿: エンテツ | 2010/05/29 00:03
エンテツさん、こんにちは。
だいぶ前にコメントさせていただきました。
でもハンドルネーム変えちゃったからわからないかな。
>「日本だけは、禁酒禁煙のない国にしよう」「「寛容と包摂の先進国」
出た、エンテツ節!
という感じです!
僕は昨年入院した関係で、現在酒はやめてますが、煙草はあらゆるバッシングにもめげず、モクモクやってます(笑)
うん、寛容でなければいけないですね。
些細なことでトゲトゲしくなる社会の方が不健康極まりない。
話は変わりますが、僕のじい様はエコーを吸い続けてましたが、享年93。死因はインフルエンザをこじらしただけで、病気一つありませんでした。
ばあ様(じい様の嫁)は現在102歳ですが、一人でトイレに行き、老人ホームのイベントでは、いつも代表で挨拶をしています(笑)
もう30年以上前から「私は体が弱い。長生き出来ない。」と言う、ネガティブシンキング。
いつも医者からもらった何だかわからない薬を飲み、じい様の副流煙も吸っていたはずなのに、この長寿。
世に出ている「長生き本」と、全く正反対の生き方でこれだから、人間、わからないものです。
最後に、ばあ様の最強武勇伝。
じい様と夫婦喧嘩して、神奈川から栃木の本家まで家出。
その時既に90歳を過ぎていました(笑)
投稿: art-isamu | 2010/05/28 09:20
こちらこそ、ご無沙汰しています。
ご活躍の様子、最近の独仏日比較が盛り込まれたフランス訪問記、おもしろく拝見しています。
>「分かっちゃいるけど止められない」、いいですね。この衝動!
>芸術は衝動だ!
まさに、そのことで。付け加えれば、「なぜ飲むの? わかってたまるか ベラボーめ!」ですね。
しかし、ちかごろの「健康志向」は薄気味悪いです。「アート」とかいう、キレイでカワイイだけで、毒にもクスリにもならない芸術とやらも、そうですが。
投稿: エンテツ | 2010/05/24 11:42
「分かっちゃいるけど止められない」、いいですね。この衝動!
芸術は衝動だ!なるほど、健康志向も一種の押し付けられた価値基準に他ならないですね。
ご無沙汰しておりました。益々ご活躍の様子、どうか飲み過ぎに気を付けて、健康に留意下さい。
投稿: pfaelzerwein | 2010/05/24 04:42