「いり豚」「ポテトフライ」…ビンボーめしと『みんなの大衆めし』。
2010/06/04「『みんなの大衆めし』打ち上げ、朝帰り。」に、なんの説明もつけずに載せた、この画像は、十条の大衆食堂「天将」のいり豚だ。
いり豚のことは、2010/05/14「『東京あたらしい下町』、気になる「いり豚」「ポテトフライ」。」で、ちょっとだけふれた。
『みんなの大衆めし』の58ページには、天将の店内にあるサンプル・ショーケースの写真があって、「いりぶた」のサンプルが写っている。
それを、打ち上げの日に注文して食べた。『東京あたらしい下町』に載っている、浅草の水口食堂の「いり豚」は、カレー風味のようだが、天将のはトマトケチャップ風味の仕上がりだ。うまくて、みんなが競うように食べたから、すぐなくなった。
いり豚は、たいがい豚バラとタマネギをいためたものだが、天将で、それを食べながら、「むかしのいり豚はね、もっとタマネギが圧倒的に多くて、豚肉はチョッピリだった」と、まだなんとか30代だから若いといえる写真の齋藤さんに話したら、彼は、「これだって、いり豚という割にはタマネギが多いじゃないですか」と言った。
なるほど、そういわれるとそうだが、むかしは、肉がチョットでも入れば「肉」のほうを持ち上げた名前がついたのだな。「肉入り野菜炒め」だって、豚こまのコマみたいのを、やっと探し出すていどしか入っていなかった。それでも、肉入りならリッチな気分であった。わずかでも、肉が入るか入らないかが、リッチとビンボーの分かれ目だった、そのようにビンボーだった、といえる。
さてそれで、2010/05/14にも書いたし、写真も載せているが、『東京あたらしい下町』には、「ポテトフライ」が載っている。駒形軒の「ポテトフライ」だ。このポテトフライと、ほとんど同様のものが、『みんなの大衆めし』の「大人のビンボーめし」にある。厳密なことをいえば、もちろん、レシピは、少しちがうはずだが。
「ビンボーめし」なんてものは定義のしようがないと思う。ようするに、ビンボーな思い出や、「ビンボー」と感じる状態において食べたものという、きわめて個人的な体験的なものに左右されるだろう。実際、おれは、「ポテトフライ」について、「ビンボーめし」という感覚は、なかった。瀬尾さんは、なんらかの個人的な体験から、これを「ビンボーめし」に入れたと、おれは理解している。
おれなんぞは、ガキのころ、白菜漬けと、麩が入っただけのみそ汁で、ずいぶんめしを食べた。ほかのおかずを買うカネのない状態であったにちがいないのだが、「ビンボーめし」という感覚はなかった。というと、あのころは、みんなビンボーだったからね、ということになる。
あたかも、現在の大衆は、ビンボーから抜け出しているかのような「錯覚」がある。むかしより肉が食えるようになったから、ビンボーでなくなったというのは「錯覚」で、畜産振興やら輸入やらによって、肉の位置が、かつての白菜漬けのようになったにすぎない。たいがいのものが、そういうことであり、そして、たいがいの人たちは、余裕のない状態で働かなくては、食べていけない。つまり、本質的にビンボーなのだ。
ま、ビンボー談義は、よしとしておこう。
『みんなの大衆めし』に「ビンボーめし」が載っているのは、不況に媚びたわけではない。最後の、「巻末対談 ビンボーめしから「大衆めし」を語る」は、いわゆる「対談仕立て」でおれが書いたものだが、それは、このように始まっている。
エンテツ 料理本で料理の先生が「ビンボーめし」をやるのは珍しいね。でも「ビンボーめし」って、大衆めしのキホンかもしれないなあ。
そのあとの会話で、瀬尾さんが、こういう。これは、瀬尾さんが話したことを盛り込んだものだ。
瀬尾 ただ安いだけじゃだめね。たとえば、安い袋詰めの「もやしキムチ」があるでしょ。あれを袋から出してそのまま皿に盛っても料理にならないし、楽しくない。油で炒めておいしくしようとか、少しでも何か意図を持って手を加えるの。それはね、文化よ。
これは、料理が文化であること、文化であることの条件を、きわめてシンプルに語っているといってよいだろう。とかく、「高級」であるとか「上品」であるとか「おしゃれ」であるとかといったことが、あたかも「文化」の条件であるかのように語られることが多いのだが。そのあと、おれは、こう言う。
エンテツ なるほど。材料が安いか高級かではなく、何か意図を持って料理するかどうかってことだね。
ま、そういうリクツは、どうでもよいのであって、レシピ本は当然だし、料理や食に関する本は、それを見たら、見た読者が、何か作ってみようという気になるかどうかが、カギだ。料理は、作らなくては存在しないし、食べたらなくなる。
こういうメールをいただいた。某市の区役所に勤める40歳代男子である。どうもありがとうございました。
さっそく「みんなの大衆めし」アマゾンで購入して読みました。
いままでにない視点でおもしろかったです。
白滝のたらこ煮はすぐつくりたくなりました。
瀬尾さんのはすぐつくりたくなるのがよい。
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