祝、四月と十月文庫『えびな書店店主の記』蝦名則著、港の人から刊行。
以前に何度か書いた。牧野伊三夫編集長の美術系同人誌「四月と十月」の文庫本が発行になった。一冊目は「四月と十月」に、「美術の本」を連載している、東京都小金井市の古書店、えびな書店の店主・蝦名則(えびな のり)さんの著書だ。
蝦名さんについては、「四月と十月」から引用しよう。……1950年青森県生まれ。美術・工芸雑誌の編集者を経て、1982年古書店開店。1987年古書目録「書架」創刊。
その「書架」に書かれていた編集後記が、本書には多く収録されている。主に、絵と音楽と本と旅といった感じの、記録的なエッセイが中心だ。それに、思い出の人々。
絵も音楽も古書も、門外漢のおれには、よくわからない話が多いのだが、わからないなりに読めちゃう。文章が飾ることなく素直なのだ。そして、パリやベルリンでの食べ物の話を読むと、蝦名さんて、けっこう味にうるさそうと思ったり。そうやって、すらすら読めた。
なんといっても、装幀・装画それにデザインが絶妙。うーん、この絶妙さ、どう表現したらよいか。とにかく、装幀・装画は牧野伊三夫さん、デザインは青木隼人さん。
近頃の、文芸的なおしゃれな本というのは、モノとしての本のデザインに凝りすぎというか。造本が一人歩きしているように感じることがある。華美ではないし、むしろ逆なのだが、工芸品的あるいは装飾品的な方向に走りすぎという印象を持っていた。
簡素だけど高級感があるというか、「暮らし感」に欠ける。そして、おれのような下世話者は、近寄りがたい、「文芸」というものが醸し出す、アレ。生活からかけ離れた、「キリッ」とした、気取りを感じるのだった。生活クサイところを排除するのが、アートであるかのような。
しかし、この、四月と十月文庫である。まず、文庫というが、普通の文庫より、タテヨコとも少し大きい。これが、手に持った時に、絶妙なのだ。ま、手に持ってみてよ。その質感が、なんともいえん。そして、本文のデザインの、なんていうのか、まわりの余白の間のとりかたも絶妙。
手にしているだけで、ほんのりあったかい気分になってくる。これは、あきらかに、牧野マジック。これぞ、生活の中のブックデザインだ。
おれは、手にして、パラパラやっているうちに、なぜだか、なんだか、八重洲の「ふくべ」を思い出した。ふくべの空間と、白いとっくりを、思い出したのだな。
そのまま、牧野さんに、ふくべを思い出したと、メールした。
最後になったけど、編集は、成合明子さん。
出版を記念してトークがあります。
2011/05/25
四月と十月文庫1『えびな書店店主の記』出版記念トークイベント。
ブログ「港の人日記」
http://d.hatena.ne.jp/miasiro/
えびな書店
http://www.ebinashoten.jp/
最後に「ふくべ」です。高級・低級、上品・下品を超越した、生活のニオイを排除せずに抱き込んだ「品」というものが、ありますな。この男にしても・・・。
| 固定リンク | 0
| コメント (0)
| トラックバック (0)