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2013/05/27

『四月と十月』からエロへ転がり。

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なにがどう転がるか、わからない。って、自分で転がっているのだが。

もともとは、牧野伊三夫編集長の美術系同人誌『四月と十月』で連載している「理解フノー」、昨年10月発行27号の9回目で、「十年後」のタイトルで書いたことから始まる。そこで、数行ぐらい、性の老化についてふれた。これがいろいろなところで話題になった。その一つが、ここに転がったのだ。

小岩の野暮酒場で飲んでいるときだったと思う。そのことが話題になり、シニアの性について書かないかという話があった。詳しくは酔って覚えていなかったが、見本誌が送られてきた。かなり豪華な、俗にいわれるエロ本の類だ。別にかまいやしない、おれはフリーライターだから、頼まれて、出来ることならやる。二つ返事で引き受けた。

『四月と十月』は、格調高いのとは違うし、高尚でもないが、ようするに芸術の香りがする同人誌だ。そこに書いたことから、まったく対極にあると思われる、エロ雑誌に転がった。

担当の編集さんからのメールは、こういうことだった。いやあ、こういう依頼は、初めて。生きていると面白いことがある。

「熟年熟女の発情期」みたいな感じのテーマでいこうと思っています。

そこで、遠藤さんには、自分の体験でもOKですし、
友人からの聞き書きという形でもOKです。
当然、架空の話でも大丈夫です。
シニアたちの発情の様相、
そしてトチくるった時のがむしゃらな欲望への追及……。
何でもOKです。

「シニアの発情の様相、トチくるった時のがむしゃらな欲望への追及」に笑った。面白いなあ。締め切りまで1ヵ月ぐらいあったので、いろいオベンキョウした。

まず、面白かったのが、境界線がキッチリしているわけではないが、大雑把に、「エロ」と「ピンク」と「官能」が使い分けられているらしいことだった。「官能」については、わりとハッキリしていて、これは文学の階級で言えば、「純文学」に相当する「高い」位置にあるらしいことだった。「官能小説」なんていわれかたをするな。この世界でも「小説」は、エライらしい。「エロ」と「ピンク」の違いは、難しい。たとえば、業界のベテランでも、「ピンクはエロくなければいけないのかね」という言い方をする。ま、でも、これが、わかりやすい例だろう。

で、おれは、ピンクにエロをかませることにした。これは、いってみれば、エンターテイメントの読者サービスのようなものだ。

テーマは、かなり逸脱させてもらうことにした。ようするに熟女が登場すればよいだろう、ていど。テーマは、以前読んで面白かった、『第三の脳』(傳田光洋著、朝日出版社)から、想を得た。この本は、スソアキコさんが挿画と挿絵を担当している。スソさんの帽子展で買ったのだ。編集者は、北九州市の情報誌『雲のうえ』13号でライターもしている、赤井茂樹さん。

「第三の脳」は皮膚のことで、第一の脳は大脳、第二の脳は粘膜、そのように認められているので、皮膚を第三にした。人間の身体は、抹消末端すべて大脳の支配下にあるというのが、まだ広く「常識」のようだけど、違うということを述べている。トンデモではなく、ごくまっとうな本なのだ。

それをヒントに、大脳に支配された性は、大脳を支配してきた男に支配されている、そういう性からの脱却をテーマにした。ボーヴォワール『第二の性』のあと「第三の性」に関する言説いろいろあるが、どうも「大脳」寄りだ。そうではなく第二の脳「粘膜脳」や第三の脳「皮膚脳」から見た「性」の探究に挑む野心作?なのだ。編集さんが、テーマに近いタイトルをつけてくれた。つまり、「目覚めよ、粘膜脳!」だ。

とにかく、チャレンジなので、滑稽や皮肉や、いろいろな要素を織り交ぜて書き上げた。書いている最中から自由で、愉快で、楽しかった。やはり、山﨑邦紀さんや浜野佐知さんのピンク映画を観ておいたのもよかった。

じつは、山﨑邦紀さんも寄稿している。表紙には、《特別寄稿》として、もうひとり、福富太郎さん。このお2人のベテランに並んで、おれがいる。おそれおおいことだ。

『性の探究』という雑誌で、発行は光彩書房という一水社の関連会社だ。

業界ではシニア対象の「告白本」といわれる類らしいのだが、おれと山﨑さんだけ、単なる告白とは違う。山﨑さんの場合は、映画と同じように、堂々とエロになっていない。おれは、少しだけ、エロをかませたフィクション仕立て。とはいえ、「シニアの発情の様相、トチくるった時のがむしゃらな欲望への追及」のひとかけらもナシ。ほかの文章を読むと、これじゃとても発情を招くエロの筆力じゃない。おれも山﨑さんも、マジメに性の探究をしているみたいで、笑ってしまった。しかも、偶然にも、山﨑さんも皮膚がらみのことを書いている。

この雑誌は、『原色文学』という堂々たる文学雑誌の増刊なのだ。年3回ぐらいの発行らしい。本文に上質の厚い紙を使って、若干猥褻な図版があるが、圧倒的に文字だ。活字離れのイマドキに、しかも、本文258ページもあって部厚く、1600円。活字文化健在ではありませんか。といっても、「活字文化」側は、これを活字文化の勘定にはいれたくないのだろうな。そのへんが、出版文化のダメなところで、だからこそ、こういう雑誌を応援したく、チャンスがあれば書きたい。ま、それほどカタイ話じゃないか、以前は、「全日本オヤジ選手権」で、これはピンク娯楽ビデオとでもいうのか、AV嬢と共演しているし。

とにかく、また書きたいなあ。どうか、みなさん、買って読んでください。立ち読みというわけにはいきますまい。そうそう、400字15枚までという依頼だったのに、おれは勢いがついて、20枚も書いてしまったのだ。掲載のペンネームは「エンテツ」、編集さんがつけてくれた肩書は「コラムライター」。

しかし、買って読んでくださいと言われても、困るでしょうね。表紙には「性の歓びなくして何が人生、何が長寿!」とありますぞ。ごもっとも、異議ないでしょ。気取らず、素直に楽しもう、買いましょう。つまらない純文学の雑誌なんか買ってないで。

来月8日土曜日には、小岩の野暮酒場で、この、おれのエロデビューを記念して、泥酔論トークをやる。詳細は、のちほど。

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