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2013/12/18

林舞は天才か、縦横無尽のパンワールド『パン語辞典』に「戸惑う味覚」を書いたのだが。

001『パン語辞典』(誠文堂新光社)は10月20日の発行だった。著者は「ぱんとたまねぎ」になっているが、これは林舞さんの「屋号」なのだ。

林さんから「パン×めし」というテーマで執筆していただけたら」という依頼があったのは、4月中ごろのことだった。エンテツといえば「めし」のイメージだからと。

林さんとは「雲のうえファンクラブ」の縁だが、電話とメールの付き合いだけで、福岡にお住まいということもあって、お会いしたことはない。

ちょうど、『大衆めし 激動の戦後史』の原稿を書いている最中だった。「パンかめしか」の論争というか争いは、国の食料や農業政策もからんで、いまでも表舞台や裏舞台でやりあったりと、続いている。これを生活と味覚からどう考えたらよいか、ということで、1960年ごろの「米を食べるとバカになる」論、80年ごろから現在の食育基本法に通じる「日本型食生活」論、2000年頃からにぎやかになった「アメリカの小麦戦略」論などにふれている。

いままた、和食のユネスコ文化遺産登録で、「世界に認められた和食」を旗印に、一部の人たちは「パンとコーヒー」を排除的に批判しながら、「米食中心の日本型食生活」が勢いをつけているようだ。かと思えば、先日頂戴したのだが、今年の2月には『白米中毒』(白澤卓二、アスペクト)なる本も出ている(この本では、白パンも「悪」なのだが)。なんにせよ、あいかわらず、生活からの視点が欠けている。

ま、こういうことについては『大衆めし 激動の戦後史』を読んでもらえばよい。この問題には、いろいろなことが絡んでいる。

008それにしても、以前から、米食文化には楽しさが足りないなあと思っていた。食料自給率の危機を訴え、「日本人だから」「日本人なら」米を食べるのはアタリマエ、という、いわば国策にのった、大上段な話が多いのだ。これでは、パンの楽しさ、その魅力を訴える力に負けそう、と思っていた。

一方で、近年は、おれが昨年4月から6月の3ヵ月間、隔週で生出演していたNHKラジオ「すっぴん」でも見られたが、そこではリスナーの投稿(インターネットで写真を投稿)をもとに、弁当や朝食を紹介するコーナーがあり、おれもコメントを述べたりした、それが米食でも見るからに楽しいのが多かった。

米食を推進する側と消費者のあいだにあるギャップを感じ、とにかく、もっと大上段の説教ではなく、米食が自由で楽しくなる本が欲しいと思っていた。

だから、この本を見て、最初に思ったのは、こういう米のめしの本が欲しい!ということだった。

003しかし、見ていくと、こういう本は簡単に作れるものじゃない。パンとたまねぎの林さんの、体験や熱意や惚れこみ思い込みはさることながら、多彩な才能が噴出しているのだ。なに、この人の、自由自在は、かないません、脱帽、天才! 

つまりは本書のなかには、林さんが「パンとたまねぎ」になる過程もイラストで描かれているが、この人あっての、この本で、こういう人がこういう本を出せるだけのパンの文化の力があるのだ。めし好きのおれは打ちのめされた気分、ってほどじゃないが、いちいち驚嘆することが多い。

本のタイトルが、「パン辞典」「パンの辞典」ではなく、「パン語辞典」というのがミソだ。
「パンにまつわることばを
イラストと豆知識でおいしく読み解く」
という本なのだ。

002_2パンの原料や製造、製法、種類や歴史などは、世界にまたがって、紹介されているが、たとえば「きょうと【京都】」という項目は、「ユメのキョート」と題して、パンが好きになった林さんが「すてきなパン屋さんが密集する町、京都」へ向かって故郷を旅立ち「夢の京都パン生活」を送るイラスト絵本のような見開きなのだ。

北九州名物「かたぱん【堅パン】」の写真には爆笑。「がっき【楽器】」の項目には、「パンフルート」「パカーワジ」「スティール・パン」と、単なる「パン」がつく楽器まで登場。ダジャレか!「かっぱん【活版】」もあるぞ。マジに「パンかけ醤油」なんてのがあるのだ、知らなかった。

そして、自由自在は、ヴィジュアルにも、ふんだんに盛り込まれる。写真に、「キラ キラ」だの「ぐら ぐら」だの文字を白抜き。なんですか、なに遊んでるんですか、楽しい。「かき かき」の文字がある写真は、あの教養高く生真面目そうな林哲夫画伯が、食パンの絵を描いているところだ。林大画伯の写真に文字を重ねていいのか!面白い、おもしろい。

そういうわけで、おれのコラム「戸惑う味覚」なんか、どーでもよいという気分になる。が、このコラムは、なかなか好評らしい。

とにかく、この楽しくよくわかるパンワールドに、林舞の天才を見よ。

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