「東京で売れる味」は「東京の味」か?
2014/07/10「「東京風」の味って、どんなものか。」の関連になるが、「東京で売れる味」という評価の仕方はある。
おれが文を担当した、北九州市の『雲のうえ』5号「食堂特集」には、あるうどん屋について、こういう記述がある。
「うどんだけでも「名物」といえる存在だ。すでに「有名店」になりそうな気配もある。だけどあるじは「うちのポリシーは崩したくない」と言う」
これは少々もったいぶった表現で、これでは「「有名店」になりそうな気配」については、読者にはよくわからないだろうと思いながら書き、凄腕の編集さんのチェックもパスして生き残った。
どういうことかというと、このときは、ロケハンで50店ほど訪ね、最終的にその半分ぐらいを取材し掲載したのだが、ロケハンで初めてそのうどん屋で食べたとき、すぐピンと「これは東京でも売れる味だな」と思った。かつてのプランナー時代のクセで、「うまい」「まずい」ではなく、そういう判断をするクセがあるのだ。
と、あとで気がついたのだが、その時は、それがどうしても気になり、本番の取材のときに、ご主人に、「どこかのプロデューサーから、東京に出店の話がありませんでした?」と聞いたのだ。すると、ご主人は、驚いた顔で、「よくご存じですね、ありましたが、うちのポリシーは崩したくないので断りました」といったのだ。
いや、おれは、この味なら東京で勝負できると思ったもので、と、そのとくに汁について話したのだが、それでわかったことは、ご主人のどちらかの祖母が関東出身だったのだ。しかし、だからといって、この味は、この地元でも人気であり、これを「東京の味」といえるほどの根拠にはならない。それに、「味」を、「場所の味覚」にしてしまうのも問題がある。それでまあ、上のように書いておいたのだが。
日本全国を食べ歩き、それを趣味ではなく、出店や商品やメニューの開発の仕事にしているひとたちがいる。
おれは、そこまでやらなかったが、イチオウ、その関係の仕事に関わっていて、とくに80年代後半バブルのころは、予算もあることであり、昨年亡くなられたその世界では実績もあり高名なプロデューサーの方と一緒に仕事をし旅もし地方の方の相談にものった。
地方の方は、「これを売りたい」という、するとそのプロデューサー氏は女性であるが、「どこで売りたいの?東京で売りたいのなら、この味を、もう少しこうしなきゃダメよ」という言い方のアドバイスを、よくするのだった。それがもうすごく適切で、驚いた。なるほど、東京で売るには、こうでなければならないのかと勉強になった。
彼女は数々の有名店を手掛け、自分でも直接経営をしていたが、原宿の店は、彼女亡きあとも残っている。
しかし、やはり、それは「東京で売れる味」ではあるが、「東京の味」であるかどうかは疑わしい。東京は人口が多すぎるほどで、さまざまな味のマーケットが存在しうるからだ。でも、このセンをクリアしないと商売としてはやりにくい、という味はあるようだ。言葉では説明しにくいのだが。
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