東京新聞「大衆食堂ランチ」28回目、動坂下・動坂食堂。
先週の20日は、第三金曜日で、東京新聞に連載の「エンテツさんの大衆食堂ランチ」の掲載日だった。
今回は、動坂下交差点にある動坂食堂。JRの最寄り駅は田端になるか。
この交差点の近くには、もう一軒、人気のときわ食堂がある。どちらにしようか迷ったが、まずは、動坂食堂にした。
すでに東京新聞のサイトにも掲載になっているので、ご覧いただける。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyoguide/gourmet/lunch/CK2015022002000199.html
近くに住んでいる知り合いの一人は、もっぱら、ときわ食堂を利用しているし、別の一人は、動坂食堂を利用していることが多いようだ。
利用者側からの比較選択の基準というのは、とくに大衆店についていえば、一般化できる確かな基準というより、つまるところ決着のつかない、たいがい微妙な「好み」の問題になるようだ。
料理法的にみると、動坂食堂とときわ食堂には、ちがいがある。だけど、そういうちがいが、それだけで、利用者の選択の決定的な基準になることは、ほとんどないだろう。
よく大衆店で、「職人の味」「職人仕事」などをアピールするところがある。本来は、食べてみればわかるハズの料理に、そのようなアピールをするのは何故だろうというモンダイは、なかなか面白い。
そもそも、「職人」とは何か、「労働者」ではないのか、「労働者」であってはいけないのか、「労働者」とのちがいは何か、などに関係するし、「職人」に対する憧憬の背後にある思想も、大いに気になるところだ。
「料理研究家」「料理家」という人たちがいて、料理のレシピを創作したり料理に関するエッセイを書いたりする。面白いのは、料理店の厨房から始めたひと、つまりお店で料理人をしたことがある人と、そうでない人では、ちがいがあるようだ。
「商品開発」という仕事においては、あちこち食べ歩いて、「これは職人の味だね」「これは職人仕事だね」という評価をすることがある。それは、必ずしもいい意味ではないこともあるし、いい意味のこともある。
去年、『dancyu』11月号で「東京の味って、どんな味?」を書いたときは、4つの店を取材した。そのうち、老舗の料亭と蕎麦屋は、自他共に認めるといっていいだろう、いわゆる「職人の味」「職人仕事」の店だし、おでん屋については、いろいろわかれそうだ。月島の居酒屋については「超」がつくほどの人気店だが、いわゆる「職人の味」「職人仕事」とはちがうだろう。
「職人の味」「職人仕事」が上とする考えには、あまり根拠はないが、それが簡単に通用するのには、いろいろな理由がある。
一つは、言葉の問題で、「職人の味」「職人仕事」以外に、うまく表現する言葉がないからだ。これは、いまでも根強い「職人原理主義」が支配的だった名残りといえるかもしれない。「手作り」「手仕事」に対する思想の問題も含まれるようだ。「素人」や「労働」が軽く見られてきたこととも無関係ではない。それは、日本の文学のことにも深く関係する。
動坂食堂から、おもわぬほうへ話が転がったが、「職人の味」「職人仕事」については惰性的にありがたがるだけでなく、考えてみなくてはならないことが多い。
いわば、「家庭(素人)料理」と高級料理店を頂点とする「職人料理」のあいだにある大衆食堂では、いつもそのことが気になる。
ところで、下の写真だが、動坂食堂の隣は、オリジン弁当だ。食堂にとっては、ファミレスなどより、コンビニや弁当屋のほうが、はるかに厳しい競合になるが、動坂食堂は負けない力を持っていると思う。
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