スノビズムと味覚または料理または食。
昨日の続きのようなことを書く。
1995年は、おれが出版業界やライター稼業に首を突っ込むことになった、『大衆食堂の研究』が発行になった年だ。
あれから20年というわけだが、川の東京学の相棒、有馬さんから、次回のトークについて、「『大衆食堂の研究』」刊行から20年で変わった・変わらなかった川の手、大衆食堂」てなテーマで行うのはどうかという話があって、これから打ち合わせをして決めるのだが、そういう感じになるだろう。
たまたま、2012年11月発行の『雲遊天下』111号は「なくなったもの」特集で、おれは「大衆食堂から見るなくなったもの」というテーマを与えられ、寄稿している。
この内容が、簡単だけど、「大衆食堂の研究」後のソウカツのようなアンバイなのだ。まだ「川の東京学」のことは考えになかったが、東京の東つまり川の手から見た山の手的な大衆食堂の見方、それは山の手文化的なものがリードしてきた消費主義的な見方ともいえるのだが、そういうものに対する違和感を述べている。それが、有馬さんがいうテーマとも関係するにちがいない。
いま「山の手文化的」なものと書いたが、これは「第四山の手論」などで「「東京」の侵略」というぐあいに表現された「東京」の文化であり、それとは異質な川の手文化は包括されてない。そのことは具体的に、「大衆食堂から見るなくなったもの」にも書いた。
『大衆食堂の研究』の帯では、「小市民化した東京大衆」の文化であり、これを「ののしり、オシャレとウンチクとモノグサにまみれた食生活をたたく」としている。であるから、『大衆食堂の研究』のサブタイトルは「東京ジャンクライフ」だったし、まだ当時は、「ジャンク地域」は川の手以外にも、点々とだが存在した。
で、昨日引用した、「スノビズムとは」だ。
その文章の、「遅れてきた王朝文化人」を、「遅れてきた小市民的文化人」とでも入れ替えてみると、大変おもしろい。そこに1995年以後が、浮かび上がる。とくに、おれは食に関心があるからだろう、食の分野に顕著だと思う。
「みやび」の洗練といえば京都で、京都は、ある種のスノビズムの頂点に立ち続けてきた。昨日の綾鷹のコマーシャルのように、京都のみなさんは、日本人の味覚は、世界一繊細だと思うと気づかせてくれたりしている。らしい。
『大衆食堂の研究』の「思えば…編*田舎者の道」では、「 「日本人のふしぎは、田園(いなか)を一段下にみることですね」といった、アメリカの日本人学者のことばを紹介した司馬遼太郎さんなどは、「都あこがれという日本人の習癖は、平城京(奈良の都)のころにさかのぼるべきなのかもしれない」」と書いたりしているのだが。
ようするに、「みやび」とは、かつては「宮廷風であること」でよいだろうが、いまでは「都会風であること」「優美で上品なこと」などであり、芸術的で文化的で、おしゃれでかっこいい(クール)とか、そして、ここだ大事なのは、ダメなやつはダメなのであり、侮ったり軽んじたり馬鹿にしたり見下したり、劣っていると下に評価する対象を、明確に持っている文化といえようか。
その一段下に見られる不動の地位が「田舎者」であり「労働者」だった。そういう文化を、ひたすら洗練させてきた。言葉づかいだけは、凛としたり、丁寧だったり、誠実そうで真摯そうなのは、洗練のおかげだろう。
野暮を洗練させるとか、ダメを洗練させるという発想なんかない文化。
それはともかく、速水健朗さんの『1995年』を読んで、すぐさま思ったことは、ワインブームだ。確か、あのあたりから、「カリスマ」という人たちが脚光浴びたりした。「達人」がもてはやされるようになった。
いわゆる「グルメ」はもちろん、ワイン、焼酎、清酒(日本酒)、あるいは居酒屋や大衆酒場などのブームは、入れ替わり立ち替わり、スノビズム丸出し、近頃はコーヒーや喫茶店やスイーツなど、とりわけ嗜好品をめぐるスノビズムは、喫煙排除のあとの消費市場の埋め合わせかと思えるほどだ。
大きなブームにならなくても、嗜好品の分野や嗜好的消費の傾向がある雑貨や工芸品の分野など、とにかく、スノビズムが花盛りとなったのは、95年以後の消費の特徴ではないか。
そういうスノビズムをリードしてきた小市民的文化人がいるのだが、彼らの語りの特徴は、対象の構造的な位置づけ(構造的把握)が出来てないことだろう。全ての人が同じように出来てないのではないが、思い込みや思い入れによる、結果的に循環論法にならざるを得ない、あるいは、最初から循環論法で、自己満足している。ま、ようするに、売れれば、勝てば官軍で言い分は通るのだから。
タイトルらしい内容にならないうちに、もう書くのがメンドウになった。
最後に、小市民的文化人である有名な「料理研究家」は、たくさんいるけど、小林カツ代さんは、スノビズムから最も遠い人だったと思う。
小市民的文化人の定義、なんてのをやってみるのも、おもしろいかな。
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