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2015/08/04

数字は正直だ。

長いことやっていたマーケティング屋の仕事は、毎日が数値だった。自分が仕事で関わるクライアントの業界の、さまざまな経営やマーケティングの指標、大手各社の証券報告書、市況の動きなどは、いつも頭の中にあった。家計調査やNHKの生活時間調査などの基礎数字も記憶していた。街を歩くと、交差点で交通流量や気になる店の客単価や売上を計算してみたり。住宅街では路線価と建物と駐車場のクルマから、年収や可処分所得を推測してみたり。そんなことがクセになっていた。

調査もいろいろだが、街の商売人相手のヒアリングなどの場合は、初対面でいきなり核心的な数字の話ができるかどうかで、相手の対応はちがってきた。

いまでも、スーパーへ行けば売場やレジに並ぶ客の買物かごを見て、ツイ、客単価をはじいたりしてしまう。

数字は、文章のようにウソをつかない。虚飾や虚勢を盛り込むことはできない。文章の表現に、1ミリや1円の正確さなどは、ありえない。なのに寸分まちがいなく正しいようなふりをする。

ようするに文章はキレイゴトで成り立っているのであって、どんなに厳しい表現をしても、しょせんは、論理と言葉の選び方や、ときには「熱」や「想い」の入れようなどで、とりつくろっている。ま、そこが「芸」でもあり、高度な芸は、格調高く「文芸」とよばれたりすることもある。

だけど、数字は正直だ。1ミリの狂いや1円のまちがいは、そのままあらわれる。ときには、それで破たんすることもある。仮に意図的なカイザンがあっても、いくつかの数字を関連付けていけば、それはあきらになるし、そこにカイザン者の意図を読み取ることができる。数値を読み取ることを重ねていると、数字など関係ない「いい文章」「いい本」のヨタ話も、じつに楽しいヨタとして読める。

短い数値の中に、たくさんのことが含まれていることが多い。それを読むのは、おもしろい。

ってことで、『リビングさいたま』というフリーペーパーに毎号載っている「家計簿拝見」は、ただで愛読できる「家庭物語」「家族物語」のようなものだ。

そして、じつに厳しい物語だなあと思うこともある。最新号のものは、比較的ゆとりある家計で、それでもいまや40代から老後の不安があるもので、老後のための蓄えが焦点だったが、それも大きなジケンでもないかぎり順調に推移するだろう、成長盛りの子供が2人いて、いまどきの落ち着いた平和な家庭という感じだったが、その前は、見出しからして「年収がダウンし、貯蓄ができません どうしたらいいかアドバイスを」という切ないものだった。

神奈川県・Kさん(35歳)【夫33歳・長女1歳】の収支内訳。

【月間収入(手取り)】
夫…………230,000
妻…………100,000
【月間支出】
住宅費  110,000
食費    50,000
水道・光熱費20,000
通信費   20,000
小遣い   30,000
交際費   10,000
子ども費  40,000

【ボーナス収入】
夫…………400,000
【ボーナス支出】
レジャー費100,000
住宅関連 300,000

【資産の内訳】
貯蓄…2,000,000

ボーナスで住宅関連支出があるから、たぶん住宅ローンを組んでの持ち家で、結婚するとき、将来を夢見て買ったのだろうけど、収入ダウンで、これはキビシイと想像できる。

近頃は、住宅ローンの金利が限りなくゼロに近く、いわゆる「アベノミクス」の政策の煽りや押しもあって、住宅ローン利用層の年齢は、どんどん下がり、無理があるなあ、大丈夫かいな、ということが少なくないようだが、この家庭にも、そんな雲行きがうかがえる。

アドバイザーのファイナンシャルプランナーからは、通信費、交際費、小遣い、レジャー費などの要検討が指摘されている。つまり、すると、いわゆる消費の楽しみは大幅カットになる。外での飲食もちろん、本一冊もままならない、娯楽だの文化だの教養だのどころでなくなってしまう。

残るは、日々の食事の楽しみか。ありふれたものでおいしく楽しくということになるだろう。

アドバイザーは、家計に関することだけだから、消費に頼らない生活の楽しみ方や希望の持ち方については、ふれてない。だけど、たぶん、そこが問われることになるのだと思う。

なんとなく、イケイケできた感じがしないでもない、妻35歳、夫33歳、長女1歳の家庭には、どんな生活、どんな日常があるのだろう。これから、どう切り抜けていくのか。人生観、生活観、家族観、労働観……、いろいろなことが数字に押されるように変わるかもしれない。それは、割とあることなのだ。

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