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2015/09/24

悩ましい「おもてなし」と「もてなし」。

昨日に続いて、「おもてなし」がらみ。この言葉は調べるほど、わけがわからなくなる。だいたいが、日本の伝統のことになると、じつにアイマイなことが多く、根拠も薄弱な言説が出回りやすいのは、なぜか。それが日本の伝統なのか。

いま、インターネット上には、「まずは「おもてなし」の語源を理解しましょう」ということで、

1,「もてなす」の丁寧語

 言葉の通り、「客をもてなす」の「もてなす」からきています。「もてなす」の語源とは、「モノを持って成し遂げる」からきており、お客様に応対する扱い・待遇のことを指します。ここでいう「モノ」とは、目に見える物体と目に見えない事象の2つを示します。

2,「表裏無し」

 これも字の如く、表裏がない心でお客様を迎えるということです。


といった言説(というほどのものではないが)が見られ(http://u-note.me/note/47487286 世界に誇る「お・も・て・な・し」|「おもてなし」の語源と、日本の紳士淑女が心得なければいけないたった3つのこと。)、こういうことがまことしやかに言いふらされている。

普通こういうばあいは、典拠や事例などを示し論拠とするものだが、見当たらない。

とりあえず、広辞苑では、どうか。

もて‐なし【持て成し】①とりなし。とりつくろい。たしなみ。②ふるまい。挙動。態度。③取扱い。あしらい。待遇。④馳走。饗応。

もて‐なす【持て成す】①とりなす。処置する。②取り扱う。待遇する。③歓待する。ご馳走する。④面倒をみる。⑤自分の身を処する。ふるまう。⑥取り上げて問題にする。もてはやす。⑦そぶりをする。見せかける。

といったぐあいで、それぞれ古文からの用例がある。
それが、「モノを持って成し遂げる」になり、「表裏無し」まで加わり、

心得えポイント①:想定外の気遣いをすべし
心得ポイント②:見返りを求めるなかれ
心得ポイント③:「考える時間」をつくるべし

が「おもてなし」の心得になってしまう。もう、元の意味なんて、歴史なんて、どうでもいいじゃん、という感じの、お気楽な世界だ。

とりあえず、まだ調べは不完全だが、「おもてなし」の語源に「表裏無し」を持ちだす根拠は、見当たらないし、あとで誰かがこじつけた印象が強い。


古い昔は、「御もてなし」という言い方があって、これは「御」が「おん」と読まれていたように、「おんもてなし」が古文の読みとしては正しい。それが「おもてなし」になったのだろう。

ヤフーの知恵袋には、「古文の古文の「御もてなしなり」の読みは、「おもてなし」「おんもてなし」のどちらですか? 」の質問があり、そこでベストアンサーに選ばれている回答は、以下の通り。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10114896225

「おんもてなし」のほうが一般的です。
「おもてなし」は中世より古い用例がなく、比較的新しい言い方ですし、
近世でも 文章語としては「おんもてなし」の方が多く用いられています。


「おもてなし」は比較的新しいものだというのは、実感としてある。「もてなし」は、日常でも使われていたし、文章でもよく見かけたけど、「おもてなし」は近代の文学でも、おれは記憶の良い方ではないが、思い浮かばない。


となると、「おんもてなし」は、古文・古典の単語辞典【古文単語辞書】>ま行>もてなすの意味/もてなすの訳

もてなす(もて成す)

意味

執り行う・処置する
対応する・世話をする・ごちそうする

例文

何ごとの儀式をももてなし給ひけれど、(源氏)

http://kobun.qurlab.com/syllabary_ma/word138.html

この意味の「もてなす」に「御」がついた「おんもてなし」が語源に近いと見るのが、例文の時代などからしても、妥当のような気がする。


もう一つ、「おもてなし」論者のあいだに、その精神の拠りどころとして茶道や千利休を持ちだす人たちがいる。

こちらのほうも、論者のほうで、用例や根拠などを示してくれていないので、自分で探さなくてはならない。これから、とりあえず懐石関係の本にあたってみるのだ。

まったく、これほど「おもてなし」で騒いでいながら、このありさま、こんなふうに日本の伝統や歴史が語られる、それも自己称賛的に語られるって、「クール・ジャパン」は大丈夫か、「日本の紳士淑女」は大丈夫か、と、思わざるを得ない。

ま、日本料理にしても、伝統というと、まっとうな歴史でも伝統でもなく、あとからとってつけたような恣意的なリクツが多く、それがメディアの力で「正論」になっていくのは、オソロシイことだし、イヤだねえ。

最低でも、伝統をいうなら、いつの時代の誰の伝統かぐらい示して欲しい。

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