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2015/09/12

瀬尾幸子さんの「料理レシピ本大賞」と新宅陸仁さんの「食とアートのくされ縁」。

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「賞」なるものには興味がなく、芥川賞も直木賞も、だからどうだっていうのって感じなのだが、瀬尾幸子さんが受賞した、「料理レシピ本大賞」は、いいねえと思う。

というのも、受賞作が、『ほんとうに旨い。ぜったい失敗しない。 ラクうまごはんのコツ』(新星出版社)だからだ。

瀬尾さんは、『おつまみ横丁』が上下で100万部をこえ、一躍売れっ子スターという感じになったが、この「つまみ」というのは、日本料理業界でも料理レシピ本業界でも、「傍流」に位置付けられていて、つまり「料理の本流」とはみなされていないのだ。

『大衆めし 激動の戦後史』に書いたように、なにかというと「日本料理の二重構造」の悪しき因習というか偏見というかが残っていて、普段の食事の「おかず」なども料理のうちに入らない扱い、大衆食堂のおかずが日本料理なんてトンデモナイ、というメインストリームの世界が依然としてある。ちかごろ、なにかというと「おもてなし」や「丁寧」を強調するアレなんかだが。

そのなかで、「ラクうまごはんのコツ」の受賞なのだ。今回が二回目の開催で、まだ始まったばかりの小さな賞とはいえ、これは面白いことだと思う。

この選考の仕組みはよくわからないが、サイトを見ると書店員の参加もあるようだ。二重構造の料理界の権威より、生活の実態を反映しているといえるだろう。

料理レシピ本大賞のサイト
http://recipe-bon.jp/?p=2193

最近、瀬尾幸子さんは、ちくま新書(カラー)から『これでいいのだ!瀬尾ごはん』を出版された。いただいたまま、まだ読了してないのだが、「作るにしても、食べるにしても、がんばらなくてよし!」「簡単な料理と、手を抜いた料理は違います」「料理とは、食べられるようにするだけのこと」「自分で考える力をつける」「買い物は狩りである」「がんばって作る料理は、体と心をくたびれさせる」「料理をつくることは、生きること」といった言葉がある。

こういうことが、料理をめぐって堂々と主張できるようになったのは、大いにうれしいし、「生活料理」に軸足を置いているおれとしては、これからが楽しみだ。

が、しかし、まだまだ、なのだ。

003瀬尾さん受賞のニュースは、発表会があった昨日の夕方、ある書店員の方がメールで知らせてくれた。おれは出かけてしまったあとだったので、今朝、メールを見て知ったのだが、出かけた先は谷中、新宅陸仁さんの個展「カップヌードルの滝」のオープニング+トークイベント「食とアートのくされ縁」だった。

新宅さんは1982年広島生まれで、2005年に九州産業大学芸術学部美術学科卒業し、2013年に新宿調理師専門学校調理師本科を卒業している。

「食とアートのくされ縁」は、新宅さんと花房太一さんの対談で、冒頭、新宅さんが配布の資料をもとに自己紹介と、今回の作品意図ノヨウナモノを話した。その資料には、調理師学校の「調理祭」という、卒業料理の展示会の様子と受賞例の写真があった。新宅さんは、この写真の話から始めた。

それは、調理祭の料理は、どれも「美しく」飾られているが、味付けはされてない、食べられない、見た目だけなのだ。

新宅さんは、日々の授業では先生がナスのヘタも捨てないで料理することをドヤ顔で話していたのに、卒業料理は見た目だけで味は関係ない、そして、終わったら捨てられるだけだった、そこに違和感のようものを感じたという。

そこで彼は、美術というのは、片方では何か捨てるものであると気づいたらしい。そのことは、カップヌードルを食べたあとの割り箸を高く積んだ(といってもカップヌードルをそんなに食べたわけじゃなく、割り箸を割って積んだのだけど)、今回のインスタレーションとも関係あるようだった。

が、おれは、ああ、調理師学校というのは、あいかわらずなんだなあ、まだむかしのままを繰り返しているのかと思ったのだった。二重構造の権威のほうは、あいかわらずなのだな。

時間がなくなったので、今日は、ここまで。

「カップヌードルの滝」も「食とアートのくされ縁」も、なかなか興味深いものがあった。花房太一さんの話も、想像を刺激しふくらませてくれた。食の面白さは、無限だね。この件は、あらためて書く、ツモリ。

そうそう、インスタレーションなんていうと小難しそうで、おれは「立体美術」ぐらいにしか考えていないが、写真撮るのが、ずいぶん難しい。なにしろ、ここには、ズルズル、カップヌードルをすする音まで流れていた。音は、撮影できない。滝のようにカップヌードルを食べ、あとに割り箸が残る(ほんとうはカップも残るのだが、この作品になるまでは食べてないから、10コほど)、割り箸からでも実際のマスをイメージすれば、「カップヌードルの滝」はすごいものだ。

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