熊本日日新聞の記事に載っているよ、高岡さんからメール。
今月で、ここ東大宮に引っ越してから7年たったが、生来の無精者で住所変更の知らせを出してなかった。年賀状も出してないから、おれの連絡先がわからなくなってしまった方もいる。熊本県は三角の高岡オレンジ園の高岡さんも、その一人で、すごくお世話になった方なのに、連絡をしてなかった。ほんと、失礼ばかりで、申しわけない。
と言いながら、無精は改まらない。なんでも、自ら反省し改めることは、20歳代ぐらいまでに身につけないとダメだそうで、そのあとは、加齢と共に柔軟性を失い、反省ができないガンコでゴウマンな動物になっていくらしいのだ。ということが、最近読んだ本のどこかに書いてあった。はあ、もう手遅れだ。
それはともかく、その高岡さんから、メールをいただいた。去る10月11日のこと。おれはザ大衆食のサイトに公開しているメールアドレスがあるから、それをご覧になったのだろう。
その日の熊本日日新聞の1面のコラムに、おれの書籍からの記事があったので添付しますと、画像まで付いていた。
ありがたいことだ。不義理ばかりを重ねているのに、うれしいやら、すまないやら。
高岡さんとの出会いは、忘れられないし、その年のみかんシーズンに、高岡さんのみかん畑を訪ねたり、一緒にみかんの販売をしたことも、忘れられない。
あれは1990年ごろ。まだ「無農薬有機栽培」は、ほんの一部のことで(いまでも、メディアで騒がれる割には、一部のことなのだけど)、高岡さんも取り組みだして、たしか5年ほどだったか。
土壌から変えて、せっかくうまくできたみかんを「見た目が悪いから」と農協は引き取ってくれないし、たいがいの消費者にも相手にされないという状況だった。いまからは想像つかないほど、困難なころ。
高岡さんと初めて会ったとき、高岡さんは、こんなにちゃんと作っているのにと、やりばのない怒りのようなものを込めながら、虫除けに使う自家製の木作液を、おれの前で飲んでみせ、人間が飲んでも大丈夫なものを使っているんだと言った。
あのころ、宅配便という巨大システムがあったから、助かったともいえる。おれは、「見た目が悪いのがうまいしるし」だったかな、そんなコピーを書いて、当時の知り合いルートを発掘し、販売の手伝いをした。主に、東京の人たちが、相手だった。
なんでも「無農薬有機栽培」でありさえすればよいかのようにチヤホヤされる昨今からすると、考えられないことだ。
高岡さんも60歳を過ぎた。続いているのは、素晴らしい、よかった。そればかりでない、東京圏にいた息子さんが帰り、就農しているとメールにあった。こんなにうれしいことはない。いやあ、よかった。
ほかの例にもれず、みかんも市場は縮小している。楽ではないだろう。でも、なんとかする道はあるだろう。オレンジ自由化があっても生き延びてきたし、「無農薬有機栽培」に対する無理解の壁も乗り越えてきたのだ。
高岡さんとは1シーズンだけの短い付き合いだったが、濃い付き合いだった。
ザ大衆食のサイトに掲載の「熊本県三角町、高岡さんのミカン」もご覧ください。
これは、2002年10月28日の掲載だから、13年前。いまでは、高岡さんのみかんは、大人気。
http://homepage2.nifty.com/entetsu/takaoka.htm
おれは「無農薬有機栽培」でありさえすればよいという考えではないし、実際をいろいろ見て来て、誰でもどこでも「無農薬有機栽培」で経営が成り立つとは思っていない。ハヤリだからと取り組んで、栽培的にも経営的にも失敗した例もある。人的要素、自然的要素に左右されやすい。まだまだ、これからだし、大多数の日常の食生活を支える、慣行栽培の向上も必要だと思う。
その話はともかく、高岡さんが送ってくれた、熊本日日新聞のコラムは「新生面」というのだが、食べ物の豊かさやうまさにふれて、おれの『大衆めし 激動の戦後史』から引用があり、つぎのような文章になっている。
「▼衣食住の豊かさとか言われるが、食と衣住は違う。「食は(食べられて)カタチを無くし、良しあしの判断は味覚にゆだねられるところにある」と「大衆めし 激動の戦後史」は書く(遠藤哲夫著、ちくま新書)▼当然と言えば当然の話だが、食べる人の気分や懐具合などで食べ物の評価は違ってくる。そこがおもしろいところだ。本格そばでも立ち食いそばでも、うまいときはうまい」
とかくアタリマエのことを書いても、アタリマのこととして見過ごされやすいのだが、アンガイそのアタリマエをわかっていないことが多い。うまく引用していただいてうれしいね。
「食べる人の気分や懐具合などで食べ物の評価は違ってくる。そこがおもしろいところだ。本格そばでも立ち食いそばでも、うまいときはうまい」。そのように、もっと自由に食を楽しみたい。
高岡さん、ありがとうございました。死ぬまでに高岡さんに会いに行きたい。
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