『栄養と料理』がおもしろい。
気がついたら、3月号から6月号まで毎号いただいている『栄養と料理』がおもしろい。前にも書いたが、いろいろ制約があるだろうなかで、したたかで自由自在なつくりを感じる。
「栄養」や「健康」なんて、ウサンクサイうえに辛気臭くて説教臭い押しつけがましい、ケッ、という傾向のあるおれだが、楽しくまるめこまれそうだ。
かといって、もちろんエンターテーメントではない。地味な生活のことだ。そこを、たとえば、最新6月号は、特集が「認知症に向き合うヒント」だが、ともすれば、重くどよよ~んとなりがちなテーマを、じつに軽やかに深く掘り下げる。
「認知症を知ることは、人間とは何かを知ること」という、これは広告ページのタイトルなんだけど、この雑誌全体が、「栄養と料理」を知ることは、人間とは何かを知ること、という姿勢でつくられているのを感じる。
「認知症の人の食事のとらえ方」を読んでいると、人間というのは、こういう「動物」かとおもう。人間である自分自身のことをよく知らない。いつまでたっても。
認知症の人が「食べない理由」が8つまとまっているのだが、それは、裏を返せば人間が食べる理由へとつながる。たとえば理由の7つ目は、「空腹なのかどうかわからない」とある。そんなことがあるのか。あるのだ。
ならば、いまの自分はどうして空腹を覚えたのだろう、どうして食べられるようになったのだろう、アタリマエに食べていると考えたことがない。考えてみて、なるほどなあとおもう。
そして、「介護疲れで倒れないための らくらくパワーチャージごはん」には、おれが汁かけめしの仲間と見るどんぶりやワンプレートのレシピが、どかーんと載っている。これは、介護疲れにならずとも、日々のパワーチャージごはんとして、やってみたくなる。
というぐあいなのだが、今回、とくに食文化的にヒジョーに興味を持ったのは、「減塩時代の食文化を考える」ってことで「『漬物』はどこへ行く?」という読み物特集を組んでいることだ。これは、なかなかしたたかな編集だ。
『栄養と料理』は、ここのところ「減塩キャンペーン」のようなことを続けている。「フードライター白央篤司の減塩日記」という連載もある。
そして「減塩キャンペーン」の一方で、「『漬物』はどこへ行く?」という特集を組む、このバランス感覚。しかも、この筆者のバランスが、こころにくい。
松本仲子「本来の「漬物」はすでに消滅しています」。熊倉功夫「突破口を探し続けることが重要」、これは漬物の伝統を守るためにということ。一方、政安静子「残るも消えるも、時代の必然」。小川聖子「漬物のあり方そのものが変容」。
減塩げんえんとウルサイんだよ、とおもっているおれも、ついつい読みふけり、漬物と塩と日本の食文化の関係について考えてしまうのだった。
おっと、じつは、そのことではなく、おもしろい連載のことを書こうとしたのだった。
それは、「レシピの変遷シリーズ●「栄養と料理カード」をたどる」というもの。
このカードをご存知の方が、どれぐらいいるだろうか。かつて人気だったカード式レシピの付録。
「栄養と料理カード」とは「『栄養と料理』創刊2号から付録としてついた小さな1枚のカード。材料の分量や料理の手順、火加減、加熱時間、コツなど納得のいくまで試作が重ねられ、カードという使いやすい形で掲載されました。ふりかえるとレシピの変遷が見えてきます。」
女子栄養大学香川昇三・綾記念展示室学芸員の三保谷智子さんが執筆されているのだが、これがおもしろい。
3月号が「カツレツ」、4月号が「卵焼き」、5月号が「ポテトサラダ」、そして6月号が「チャーハン」。どーです、読んでみたくなるでしょう。
もちろんレシピの歴史は必ずしも実際の台所の料理の実態を反映しているわけではないけど、時代と志向や嗜好などの移り変わりが見える。それに、レシピからは、産業と生活の両方が見えてくる。
今回のチャーハンでいえば、1936(昭和11)年12月号では「1人分でごはん350g」だけど、1971年(昭和46)年1月号では「1人分でごはん250グラム」になっている。これが意味するところは大きく多い、いろいろなことが浮かぶ。現在から未来まで。
と、まあ、なかなか読みごたえがあるのだが、さらに6月号では、おっ、とおどろくことがあった。
連載の「食の仕事人」が42回目なんだけど、「政治をもっと身近に!」「食べることで政治を知ろう」と活動している団体「食べる政治」が登場しているのだ。
食べることは政治と直結しているのは確かだ。そして、たいがいその政治を避けるように、よく「飲食の場では政治の話は禁止ね」というかんじが日本的なのだけど、これは良記事。
「食べる政治」のサイトは、こちら。食べ歩き談議や美食談議にうつつをぬかしているだけじゃなく、「食べることで政治を知ろう」。
http://taberuseiji.com/
おれの『大衆めし 激動の戦後史』も、食べることで政治を知るのに役立つよ。民主主義は食べることから、ってことさ。
当ブログ関連
2016/02/27
『栄養と料理』で栄養と料理を考えてみる。
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