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2016/07/15

「いろいろのねじれ方」を味わう。

吉行淳之介に「酔いざめ日記」という短いエッセイがある。

そこで彼は、井伏鱒二が言った日本酒の味わいについて、人づてに聞いたことを、書いている。

吉行淳之介は、「八十歳を過ぎた筈の井伏鱒二氏は朝まで居酒屋で飲んでおられて、泰然自若たるものがある」というような話しを聞くのだが、「二十年ほど前、新宿の居酒屋で偶然に井伏さんにお会いした。そのとき、「このごろ酒を飲むと湿疹ができて困る」と言われたので、日本酒をウイスキーに替えるようにおすすめした。ウイスキーのほうが、人体細胞内の滞留時間がはるかに短いのである」

と、そのあとだ。

「人づてに聞くと、その後の井伏さんは、ウイスキーのことが多いそうだが、「日本酒がゆっくり時間をかけて体内を通り過ぎてゆくそのいろいろのねじれ方に趣きがある」という意味のことを言っておられたそうだ」と書く。

「日本酒がゆっくり時間をかけて体内を通り過ぎてゆくそのいろいろのねじれ方に趣きがある」って、なんだかよくわかるし、うまい言い方だなあと思った。それに、舌先ではなく、体を使って味わっている感じがいい。

同じ安酒でもねじれ方がちがうし、純米酒だっていろいろなねじれ方がある。

こういう「大人の飲み方」と比べたら、安酒をバカにしたり、反対に「純米山廃」だからよいだの好きだのという話は、とても幼稚で、酒を味わっているとはいえない。

「いろいろのねじれ方に趣き」を見つけて楽しむのは、人生観や世界観にも関わることだろう。

ま、とにかく、酒を飲むにも、物を食べるにも、全身を使うことだ。舌先だけ、口先だけでは、いけない。

奥が深いなあ。それにしても、井伏鱒二のような大人が、少なくなったなあ。おれもイチオウ大人なのだが。

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