東京新聞「大衆食堂ランチ」46回目、池袋・なみき食堂。
東京新聞に毎月第三金曜日に連載の「エンテツさんの大衆食堂ランチ」の今月は19日の掲載だった。すでに東京新聞のWebサイトでもご覧いただける。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyoguide/gourmet/lunch/CK2016081902000178.html
なみき食堂は、なかなかたのしみが多かった。
この日おれが食べたのは、チキンライスだった。ひさしぶりのチキンライスだ。これが、昔のように楕円のステンレスの皿に盛られて出てきた。しかも、ホークとスプーンが小さなバスケットに入って添えられて。これが、「懐かしい味」は「かわいい味」を連想させるきっかけになったといってもよい。
「懐かしい味」にも、いろいろある。単純には「古い懐かしい味」だろうけど、「懐かしい味」は「古い味」だけではない。そのことが前から気になっていた。
懐かしいの奥底には、「かわいい」がある。昔を知らない若者でも、昔の空間や食べ物を、「なんだか懐かしい」と言うとき、「かわいい」と言い換えられることが少なくない。ということを、ときどき考えていた。
そして今回、このチキンライスを食べて、「懐かしい味」は必ずしも「古い味」でなく、「かわいい味」なのだと思った。
「かわいい」については、いろいろな論があるので、そのうち、「懐かしい味」と「かわいい味」の関係について、もっと深く考えてみたい。
とにかく、そんな味わいのチキンライスはたのしうまかったが、JR池袋駅からなみき食堂へ行く10分ちょとの道中も、なみき食堂があるあたりも、興味深いものがあった。
池袋駅からは西口に出て、池袋郵便局前の信号をトキワ通りに入る。このあたりは、駅近くだから道路の幅もあるし、周囲の建物の様子も池袋昭和風でありながら平成化している。
ところが、トキワ通りをすすむうちに、道路は半分の幅になり、さらにその半分ぐらいの狭い一車線になるのだ。そのたびに、通りの名前は変わり、道は坂を下っていく。道の両側の様子は、新しく建て替わっているところがあるとはいえ、大きなビルはなく、昭和をどんどん遡っていく感じがする。
そして、坂の下に着いて道が平坦になったところ、その名も「坂下通り」に、なみき食堂はあるのだ。やはり、いい食堂は台地の高台から下ったほうに残っている、という「川の東京学」的仮説が成り立ちそうだと思った。
池袋は広く奥が深い。なみき食堂もそうだが、このあたりは戦災で焼けずに残ったのだ。戦前から地続きの生活を感じさせる路地もあるし、なみき食堂は、戦災で焼け残ったが少し斜めに傾いでいた建物を修復して使っているのだった。
修復と営業開始は昭和20年代なかばのことだそうで、表の看板は、金の塗装がはがれるままになっているけど、文字は彫り物だ。
もちろん、かわいい味のチキンライスを食べさせてくれる老夫妻も、たのしい方だった。
ドライカレーもメニューにあった。
チキンライス、ドライカレー、あるいはポークライスも、ようするに「やきめし」類のものだ。ここで、こんどは、ドライカレーを食べてみたい。
前回はこちら。
2016/07/30
東京新聞「大衆食堂ランチ」45回目、ときわ台・キッチン ときわ。
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