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2016/09/26

東京新聞「大衆食堂ランチ」47回目、新宿・岐阜屋。

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去る16日は第三金曜日で、東京新聞に連載の「エンテツさんの大衆食堂ランチ」の掲載日だった。

今回は、新宿の思い出横丁の岐阜屋のやきそばだ。すでに東京新聞のWebサイトでご覧いただける。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyoguide/gourmet/lunch/CK2016091602000177.html

岐阜屋は、2015年『dancyu』5月号の中華特集でも取材して書いている。そこでは「エロうまい」という表現を使った。

「エロうまい」は、久松 達央さんが『キレイゴトぬきの農業論』 のなかで「エロうま野菜」といった「エロうま」表現をしていて、おれの周囲ではそこから広まったと思っているひともいるようだが、「エロうまい」は以前から使われていてインターネット上でも時々見られたものだ。出どころははっきりしないが、エロ漫画雑誌か何かの方面でも使われていて、この場合の「エロうまい」は、味覚のほうではなかった、という記憶がある。

とにかく、それで、「エロうま」なら、おれは岐阜屋のやきそばだと思っていたので書いたのだが、今回また同じように使うのはシャクだし、校閲でチェックが入る可能性もありそうだ、もともと「エロうま」はおれにとっては「猥雑味」なのだからと、こちらの言葉を初めて使ってみた。

新聞の場合、とくにわかりにくい表現や読みにくい書き方はチェックが入るから、「猥雑味」でもわかりにくいという指摘があるかなと思ったが、無事にパスした。ま、文脈からすればわかりにくいことはないハズ。

ついでだが、来月で4年目が終わるこの連載では、たしか一度だけ「わかりにくい」ということで別の表現にしたことがある。それから、今年になってからだが、一度だけ、段落ナシで書いたのだが、「読みにくい」ということで、段落を入れられてしまったことがある。

よくあることだが、自由にやっているようでも、人間というのは「様式」にハマりやすい。うまくいく「様式」に知らず知らずにハマり、それがまあ「飼いならされる」ということになり、自分では自由に個性的にクリエイティブにやっているツモリでも、けっこう型にハマってオリジナリティが失われているということがあるものだ。とくに、あるていど基盤が確立されているメディアでは、その可能性が高まる。そうやって、かつては個性的でオリジナリティのあったひとが、メディアに取りこまれてしまった例は、いくらでも見ることができる。

だから、こうするとダメが出るかなどうかなというキンチョー関係を自らたえず維持するようにしなくてはならない。もっとも、売れるようになるためには、そんなことはしないほうがよいのだが、ま、オリジナリティをとるかどうかの問題でもあるのだな。

それはともかく、前回のなみき食堂では「かわいい味」という表現を使った。その前には、岩本町スタンドそばで「下手味」を使いたかったのだが、これは誤解されるおそれがあるからと別の表現を考えたがうまい言葉が見つからず迂遠な言い回しになってしまった。

こういう「味」を考えたり書いたりしているワケは、「普通にうまい」も、けっきょく、ツマラナイ味覚論議の対象になってしまったという感じがあるからだ。

おれが「普通にうまい」を書いたのは2004年のことで、そのころ、主に高い目の店や専門店などが舞台だった「上下」「優劣」をつける味覚論議の波が大衆食堂あたりにまで押し寄せて来ていたので、それに対してのことだった。その関係において、「普通にうまい」は、意味があった。

しかし、どうしても「上下」「優劣」をつけたがる人たちがいるわけで、「普通にうまい」なかで、それをやるのだ。これもまあ、上下・優劣の思考様式にハマったニンゲンの姿ではあろうけど、「普通にうまい」の先には個性があるのであって、もしくはあとはそれと自分の好みの関係であって、上下・優劣のことではない、ということが理解できてないひとがけっこういるらしいのだ。

いったい「普通」って言葉を、わかっているのだろうかと思うのだが。

ま、そんなこともあって、「猥雑味」や「かわいい味」といった個性を考えてみている。

ところで、岐阜屋のやきそばだが、ほんとうは見た目から猥雑感があるのに、素人写真だから、その猥雑感が撮れず、やけに爽やかスッキリな調子になってしまった。

当ブログ関連
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東京新聞「大衆食堂ランチ」46回目、池袋・なみき食堂。

ザ大衆食のサイト関連
大衆食と「普通にうまい」…クリック地獄

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