小岩の野暮酒場で津南のポテトフライ。
10日の土曜日、たぶん2か月ぶりぐらいで小岩の野暮酒場へ行った。行く前から、野暮酒場の隣にある肉の津南のポテトフライを食べてみなくてはならないと思っていた。
食べてみて、『dancyu』10月号の「ウマい町」に書いた佐野のいもフライとの違いを確認したかったのと、肉の津南ではじゃがいもを茹でて皮をむくところからやっているのか、おばさんに聞きたかったからだ。
おばさんに5本注文すると、おばさんは冷蔵庫のバットから串に刺したそれを5本だし、溶いた小麦粉にくぐらせ、パン粉をたたいて油に入れる。茹でて皮をむくところからやっているのか聞くと、そうだという答え。それは大変だねえというと、ポテトサラダを作るからそのついで、でも大変よ、とうなずく。
安い値段のものは、手仕事で利益を稼ぐしかない。
5本買って野暮酒場へ行くと、開店の17時ぐらいで、店主とおれだけ。早速、よく眺める。だいたい、ソースがついていないこともあって軽い印象だし、串が細く3個刺さった全体も少し小ぶりだ。なにしろ、こちらは一串40円、佐野のいもフライは一串4個が標準で串も太く大ぶりで、80円から100円が平均だ。
ソースをつけずに食べてみると、佐野のいもフライとは別物ぐらい違った。津南のは、食感が軽い。「ウマい町」にも書いたように、よくあるポテトフライの「サクッ」「ホクホク」の味わいだ。
ウスターソースをかけて見たが、やはり佐野のいもフライのようにはならない。
佐野のいもフライは、小麦粉の皮の厚さがあり粘りも強く、いものモチモチの歯ごたえと重量感、それにやや甘めの中濃ソースが一体で、「佐野のいもフライ」なのだ。
モチモチの違いは、串に刺した後の「冷し」の時間と、衣にする小麦粉の溶き加減が関係していると思われるのだが。
佐野いもフライは50軒ほどあって、そのうちの老舗3軒だけでしか食べてないけど、佐野独特のものらしい。隣の足利や宇都宮あたり、古河にもあると聞くが、佐野のいもフライとは微妙に違うようだ。そこがまあ「ご当地」ならではなのだろう。
ご当地グルメといっても、土地の歴史や風土と関係なく演出的に作られたものが増える中、佐野のいもフライは違う。地元民に熱愛され「都会的洗練」なんぞ関係なしの潔さ。だいたい名前からして「ポテト」ではなく「いも」で、気取ってない。そして、これはこれの旨さがある。
誌面には原稿量の制限があって書けなかったが、取材の中で、佐野がある両毛線沿いは独特の文化があるのだけど、同じ両毛線でも足利や桐生と佐野とでは、大いに違うという話を聞いた。
その違いは、かつては同じように機織りや縫製で栄えたにしても、足利や桐生は絹で、佐野は綿だったことが関係する。つまり、佐野の興隆を担ったのは、綿という庶民文化だった。そのことは、いもフライやラーメンや耳うどんなど、庶民的な食べ物が人気なのと関係あるのだと。
その話を聞いたとき、坂口安吾が戦後に桐生に移住したころ、桐生はなんでこんなに寿司屋が多いのだと何かに書いていたのを思い出し、なんだか納得がいった。
とにかく、この日の野暮酒場は、なぜか来る人が来る人が津南のポテトフライを買ってくるので、それを佐野のいもフライのように積み上げたり、ソースをかけてみたりしたのだった。
野暮酒場のあとは、まいどのように小岩の町へ繰り出し、立ち飲みで泥酔。
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2016/09/05
明日6日発売の『dancyu』10月号で、「ウマい町」を書いています。
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