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2017/06/29

東京新聞「大衆食堂ランチ」56回目、中野・食堂 伊賀。

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今月の第三金曜日16日が掲載日だった。すでに東京新聞のサイトでもご覧いただける。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyoguide/gourmet/lunch/CK2017061602000151.html

中野は、やどやゲストハウスがある関係で、よく行っているところだし、この伊賀は、やどやからも近いのだが、駅からすると南口五差路交差点の向こう側になるので、足が向く機会がなかった。

中野は南口と北口があるが、北口のほうが大規模な開発と再開発が進み注目を浴びてきた。飲食店も多い。

南口も近年、タワーマンションができたりして、少しずつ様子が変わっている。

しかし、今風に変化が激しいのは、北口は早稲田通りまで、南口は五差路交差点までぐらい、駅から数分の範囲内だ。その外側は、かなり趣きが変わり、成り行きの街になっている。こういう事情は、都内のどの駅の周辺でも似通っている。

かつての「大陸侵攻」の軍事戦略にしてもそうだが、どうも日本のプランニングというのは「点と線」で、「面展開」の計画がないまま進む。これは、どういうことなのだろうと思うのだが、それはともかく。

伊賀がある古い店舗付きアパートが残っているのも、この位置にあったからだろう。

このような佇まいを見て、「実直そう」と見るか「なんだか怖そう」と二の足をふむかは、いい出会いがあるかどうかの人生の分かれ道。

古いが荒んではいない、入口周辺の手書きのメニューも上手ではないが誠実を感じる。そんなこともあり、見るからに「実直そう」と思った。

客席のテーブルまわりは、きれいになっているが、カウンターから厨房は、これまでの三指に入りそうなほど、最低限の片づけのあとが見られるだけだった。

だけど、不思議に不安にならない。不潔な感じがしないのだ。それは、店主の表情が、まさに実直がにじみ出ており、爽やかだったからかも知れない。修行をつんだ、穏やかな坊さんから感じるような、安心感があった。

おれと一学年ちがい。おれのほうが上だった。まもなく開業して半世紀になる。このアパートで40数年。

こういう人に会うと、グチャグチャゴチャゴチャした人生のおれは、ただただ「偉いなあ」「素晴らしいなあ」と思う。

そういうことを話すと、店主は、「そうですかねえ、自分の人生なんかふりかえったこともありません。もう毎日夢中でやってきました」「国民年金じゃたいしたことないからね、いまでも同じように店をやっています」というようなことを言った。

インターネットなど関係なし、電話は黒い電話機のまま。日々をキチンと働いて生きて、子供も育てた。少しも偉そうにしない。自慢もしない。こういう人や人生が評価されない文化ではダメだな。

昼時はすぎていたが、若いあんちゃんが入ってきた。馴染みの客らしい、店主と言葉をかわしながら、豚肉天ぷら定食を選んだ。それが気になっていたのだと言った。壁に貼ってある、そのメニューの紙は比較的新しい。

豚肉天ぷらがある大衆食堂はめずらしい。小さいハコだが、メニューが多い。

いつもいうことだが、こういう、同じ場所で長く続いている食堂がまずいはずはない。味にも安定感がある。

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